パラダイス学園 〜 五十嵐 零一 編 〜

第8話 告白、二人の噂

「あの…春日さん」

ある日の放課後、帰ろうと思い支度をしていると、零一君といる事など関係なくクラスメイトの一人男子生徒が私に声をかけてきた。

「うん、何？」

「少し時間良いかな？」

「時間？うん、別に良いよ」

「悠菜、くつ箱の所で待ってる」と、零一君。

「うん、分かった」

零一君は教室を後に出て行く。

「ごめん。タイミングなくて強制で引き止めてしまって」

「ううん」

「…あの…俺…好きなんだ！」

ドキッ

《えっ？…今…好きって言われた？》

「えっ？」

「ゆっくりで良いので付き合って欲しいんだ」

「…時間…貰えるかな…？突然の事で…」

「分かった。それじゃ」

「うん」

男子生徒は帰って行き、私も後を追うように教室を出た直後だった。

「付き合ってみれば良かったのにー」

「うわっ！ビックリしたっ！恭吾さんっ！」

「クスクス…いつから俺、先輩になったの？」

「いやいや…普通に驚いてしまって…つい敬語に…」

「ハハハ…そんな事あるんだね？ウケるんだけどー」

「もう笑わないで」

「だって笑えるからー。それより零ちゃんは？」

「くつ箱の所」

「ふーん…二人って付き合ってるの？」

「えっ？寮生でクラスメイトで友達だよ」

「友達以上恋人未満」

「いや……その言葉も私達に合わないと思う」

「じゃあ、本当に友達なんだね」

「うん。向こうもそうでしょう？」

「……どうかな？」

「えっ？」

「結構二人って噂になってるからね」

「噂？」

「付き合っているんじゃないか？って」

「嘘！？」

「本当」

「本当に！？」

「うん。春日さん、五十嵐君と付き合ってるの？って、もう何度聞かれたかな？」

「そう…だったんだ…」

「逆に零ちゃんにも近付く女子生徒の噂もあるし」

「えっ？」

「その返事は全て断っているって話だから。女の子と付き合うのが面倒なのか…それとも…今、俺の目の前にいる彼女が気になるのか？」

「えっ！？目の前の彼女？」

「悠菜ちゃん以外誰がいるの？」

「それは……」

「そのまま今の状況保つのも良いけど、一層の事マジで二人付き合ったら？」

「えっ？いや…私は…」

「まあ、二人の事だから俺は別に良いんだけど、零ちゃんも満更じゃない感じかもしれないし」

「そんなの分からないし」

「だったらハッキリした方が良いかもよ」

「……………」

「迷惑とか迷惑じゃないとかよりも、お互いの気持ちがハッキリとしていないのに、一緒にいるのも…恋愛には気持ちが大切だろうし」

「それは…」

「案外、一緒にいすぎて分からないんじゃないの？」

私達の関係

恋人ではない

ただの友達

付き合っているわけじゃないけど

一緒にいる関係は

どういう関係？

――――友達以上、恋人未満――――

今の関係を壊したくなくて

普通に過ごしている

私達だけど……

「ごめん、零一君」

「告白でもされたか？」

「えっ！？」

「図星か」

「えっと……」

「別に隠さなくても良いだろう？」

「別に隠してないし！」

「クスクス…二人って面白いねー」

「恭吾っ！」

「仲良いのか、悪いのか分からないんだけど、じゃあ俺は用事があるから」

そう言うと私達より先に帰って行き始める。

「あっ！そうそう！二人って、どういう関係？ハッキリとした方が良いかもよ。じゃあねー」

そして帰って行く恭吾君。

「どういう意味だ？」

「さ、さあ？」

私達の関係の事。

付き合っているんじゃないか？

その噂の事なんだろと私は思った。

「それで？」

「えっ？」

「その男と付き合うのか？」

「それは…分からないよ。突然の事だったから驚いちゃて…まだ返事してなくて」

「別に付き合っても良いんじゃないのか？別に俺達は付き合っている訳でもないからな」

「零一君…そうだよね。私達は別に、そういう関係じゃないしね」

「そうだな」

つまりそれって、零一君は私に対して恋愛としての想いがないって事だよね？

彼の中で、ただの友達なんだって気付いた瞬間だった。