第5話 優しさ

それから、しばらくはみんなと学校帰りや休日は出掛ける習慣となっていた。




そんなある日の学校帰り――――


どうしても街に行く用事があり行こうと思う中、不安もあった。



「街行きたいけど…どうしよう?」




その時だ。




「悠菜、何をしている?」



背後から声がし振り返る視線の先には零一君の姿があった。



「あっ!零一君!」


「…断るっ!」


「えっ?」



「………………」



「…何か…嫌な…予感がした…」


「…まだ…何も言っていないんだけどなぁ〜…」


「一人で行けっ!俺は帰る!」


「ええーーっ!良いじゃん!どうしても行かないといけない用事があるの!だからお願いっ!」



私は両手を合わせて頼む。



「行かない!」


「…ていうか…良く街だって分かったね?」

「目的は一つしかないだろう?」

「どんだけ勘が鋭いの?」

「お前の考えが単純過ぎて分かり易かっただけだ!」


「…あー、そうですか!?分かりました〜!良いですよ〜!一人で行きますぅ〜!」


「あー、行け!行け!」




私は一人で待ちに行く事にした。





―――でも―――



「寄り道コースにお目覚めか?」



ビクッ

突然の声に驚く私。



「うわっ!な、何!?驚くじゃん!」

「ボーッと歩いているからじゃないのか?」


「ボーッとしてようと、してまいと、突然、声かけられたら驚くし!ていうか…来てくれたんだ」


「一人じゃ危険だからだ!一応、女だからな」

「一応って…れっきとした女の子なんですけど!」


「お前を相手するやつはただのもの好きでしかない!」


「相変わらず失礼な事を言うね!零一君」


「俺の性格だ!」


「ひねくれてる!」


「お前もな!」


「いやいや、私はひねくれてないし!純粋な乙女だよ!」


「…純粋…?…乙女…?」


「何よ?」


「…いや…別に…」




私達は騒ぐ中、零一君は付き合ってくれた。





そんなある日の授業中の事だった。




「じゃあ…次のページの所を…」



「………………」



「春日!」


「おいっ!悠菜っ!」


「…ん…」



ペシっと後頭部を叩かれた。



「ったーーっ!」



授業中だと知らず普通に声を出して言ってしまった。



「春日 悠菜!弛んでるぞ!それとも…私の授業がそんなにつまらないのか?」



眼鏡をクイッと上げる仕草を見せる国語の担当教師。




「い…いいえ…す、すみません…」



《ヤバ…授業中だったんだ…》




「春日、次のページを読みなさい!」


「えっ!?次のページ…」


「25ページ」



小声で声がした。



私は、そのページを読んでみるものの



「春日!そこじゃないぞ!」


「えっ!?」


「今やっている所は27ページだ!」


「えっ!?…すみません…」


「もう良い!席につけ!後で、今日の所をレポート用紙に写して持って来なさい!いいなっ!」


「…はい…」




私は周囲にバレないように大きく溜め息を吐いた。




「バーカ」



背後から声がし振り返る視線の先には零一君が笑っている。




「授業中に寝ているお前が悪い!」


「だ、だからって…嘘を教えるなんて酷くない?人の頭は叩くしで信じらんない!」


「ふんっ!俺は悪くない!」



私達は小声で先生の目を盗んでバレないように言い合う。





その日の放課後――――


私はレポート写しの為、居残り中。




「はあぁ〜…ついてない……」




そして私は何とか終わらせ帰る事にし、正門を出て寮に帰ろうとした時だった。




「あれ?女の子?」

「ここ女子いたっけ?」

「つーか、今年からじゃね?」

「あー、そうか」

「君、可愛いね」




明らかに不良っぽい感じの男子生徒が3人いた。


正直、関わりたくない。




「………………」




「今から帰る感じ?」


「ねえ、遊びに行かない?」



「ごめんなさい。私、帰らないといけなくて」



「寮生でしょう?」


「えっ!?」


「部活生なら今の時間には帰らないし!」


「後、本当の帰宅部で家に真っ直ぐ帰る生徒位だろう?」


「確かに。1年生の帰宅部で寮生くらいだからな」




不良とはいえ学校の事を知り尽くしていると思われる。


多分、先輩になるのだろう?




「つーかさ…1年生の寮生って男ばかりじゃね?」


「つー事は、明らかに毎日、毎晩、色々な男と楽しい事してる感じ?」


「えっ?楽しい事?」


「言わなくても分かるっしょ!?」


「それだけ可愛いなら男は放っておかないだろうし」




グイッと抱き寄せた。




「やりまくってんでしょう?」



《やりまくる…?えっ?つまりそれって…》




「……!!!」



「えっ!?その反応って、どう取れば良いの?」


「図星的な感じ?」


「それともただ、純な感じ?」



「あなた達には関係ないと思います!だけど誤解されても困りますので言わせて頂きますが、私は寮生と、そういう関係じゃありません!失礼します!」



私は帰り始める。




「それならそれで良いんだけどさぁ〜、これ、いらないの〜?」



「えっ!?」



振り返る視線の先には、私の携帯をみせる。



「あっ!私の携帯っ!返して下さいっ!」


「俺達に付き合ってくれたら返してあげるぜ!」


「信じらんないっ!高校生にもなってそんな小さな子供(ガキ)みたいな意地悪するなんて恥ずかしくないんですか?」



「この女っ!」


「ムカつく!」


「ムカつくのは、こっちです!携帯返して下さい!」



取り返そうとするが意地悪して携帯を、仲間同士でキャッチボールするように渡さず本当に小学生レベルの意地悪だ。



取り返せない私も遊ばれているのが悔しい。




《マジ最悪だよ…》



「彼女ー、どうするー?」




一人の人が私の携帯を上下に投げながら尋ねてくる。




「行くわけないでしょう?」


「じゃあ携帯はいらないのかなぁ〜?」



「………………」



「男3人に女一人なんて反則も良い所だ!」


「あ?」


「何だよ!やんのか!」


「小学生レベルの意地悪に呆れる!」


「テメー!」



携帯を持っている人が零一君に襲い掛かってくる手を掴み後ろに捻り返す。



「いてて…は、離せ!」


「離す前に携帯を返してもらおう!」


「わ、分かった!」




相手は携帯を零一君に渡す。




「小学生レベルの知能と体力しかない相手に本気(マジ)になるまでもないな」


「はあああっ!?」


「俺が本気になる前に、とっとと失せろ!」


「わ、わ、分かった!」




3人は逃げるように足早に去った。



「あんな小学生レベルの意地悪に、どれだけの時間がかかっているんだ?お前は!」


「…そんなの…」



下にうつ向く。


悔しいけど何も言えない。


事実だからだ。




グイッと抱きしめられた。



ドキン



「余り遅いから迎えに行けと言われた!俺はお前の使用人かっ!」


「…ごめん…」



頭を撫でる零一君。



ドキン



「全く…帰るぞ!」




抱きしめた体を離し帰り始める零一君。



「ま、待って…!…私、まだそんなに早く歩けないんだけど!」



グイッと手を掴む。



ドキン



「全く!手の掛かるお嬢様だな!好きでもない女と何故、手を繋いで歩かないといけないんだ?」




私は手を離そうとしたが、ギュッと握り返してくれた。



「特別に繋いでやる!寮につく頃には落ち着くだろう?お前は震えている」




そう言うと足を止め片頬に触れる。




ドキン


優しい眼差しで見つめ私を再び抱き寄せ体を離すと私達は手を繋いだまま寮に帰る。


寮に帰りつくと玄関前で足を止め抱き寄せた。



「大丈夫か?」


「…うん…」




繋いだ手を離し両頬を包み込むようにすると私を見つめる。




ドキン


両頬から手が離れ微かに微笑み今度は頭を撫でる。



ドキン



「大丈夫そうだな」



私達は寮に入った。



次々にされる零一君の行動に私の胸はざわついた。


きっと彼は無意識なんだろうと思う。






 



















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