第8話 標的 〜 ターゲット

「悠菜ちゃん」


「何?」


「ちょっと…」


「えっ?」



グイッと私の肩を抱き寄せ、そのまま曲がり角に入り私をセメント壁に押さえ隠すように両手で行く道を塞ぐようにする。



ドキッ



かなりの至近距離でありなから、はたから見たらまるで抱きしめられてるような感じだ。



「じっとして!」



小声で囁くように言う恭吾君に私の胸はドキドキ加速する。



無理もない。


今、恭吾君といる時間が増えて私は自分の想いに嘘はつけない。


私は、恭吾君が好きなんだと―――




「…恭吾…」



ドキッ

頬にキスされた。



「恭、恭吾君っ!」

「お顔真っ赤だ〜」

「突然キスされたら…」

「唇にはしてないよ」

「もうっ!そうだとしてもキスはキスだから!」



クスクス笑う恭吾君。




「それより…悠菜ちゃん」


フッと真剣な眼差しになる恭吾君。



「何?」


「更に気を付けて行動した方が良いかも」

「えっ?」


「さっき後つけられている感じだったから…取り敢えず、みんなには報告しておこうか?」


「…うん…」



「大丈夫!俺達がいるから!」

「うん」





そして――――



数日後。


恭吾君と帰っていると




「あの…すみません」



私服の女の子が声を掛けてきた。




「何?」



女の子は私を気にしてる様子で、私を見る。



「恭吾君…私…」



去ろうとした私の手を掴み、私の肩を抱き寄せた。




ドキン



「悠菜は俺から離れたら駄目だよ」



ドキン



《名前…呼び捨て…》



「それで何かな?」

「あの…私…好きなんです!」

「気持ちは嬉しいけど、俺…」



ポンと頭に触れる。



「見ての通り可愛い彼女いるから無理かな?」




ドキン



《か、彼女!?嘘でも嬉しいんだけど…》



私達は嘘の芝居をしている。


寮生と話し合い、私は恭吾君の彼女として一緒に行動するようになっているのだ。



嘘でも嬉しい。


無理もない。


私は恭吾君が好きだから。




「ごめんね」


「…そうですか…分かりました…」




そう言うと彼女は私達の前から去る。



「悠菜ちゃん、後、追うよ」

「…あ、うん…」



「どうやら今の状況からしてみると、今回は悠菜ちゃんがターゲットみたいだね」


「…えっ…?」



「零ちゃんも告白されたらしいよ」


「…そっか…」


「取り敢えず、みんなには報告しておくから。もしかすると危険な目に遭うかもしれないけど俺達が必ず助けるから」


「うん…」


「本当は守り抜く事が出来れば良いんだけど」

「無理しなくても良いよ。何かあったら…」

「それは悠菜ちゃんの方だよ!」

「…恭吾君…」

「悠菜ちゃん、無茶しそうだから」



そしてアジトらしき所に着いた様だ。



「5人…。男の人はいない感じだね?もう少し様子見て来るから悠菜ちゃんはここにいて」


「えっ?恭吾君、待っ…」




オデコにキスされた。



ドキン



「そんな顔するな〜」

「だって…」


「もしかすると追手がいるかもしれないから、その時は絶対に抵抗ないで従って」


「…や、やだ…一人でなんて…」


「俺だって嫌だよ!大事な女(ひと)巻き込みたくないんだ!」




ドキン



《えっ…?今…大事な…人って…》




いつもと違う表情の恭吾君。


真剣な眼差しの中に、何処か切ない表情を見せる恭吾君



「これに関しては、みんな悠菜ちゃんを傷つける事になり兼ねないから大反対だったんだよ!だけど、これ以上、犠牲者を出す訳にはいかないし、ましてや俺達がいない間、悠菜ちゃんに何かあった時が一番怖いんだよ」



フワリと優しく、少しぎゅうっとするように恭吾君は抱きしめた。


抱きしめた体を離し




「無事に帰って来れたら…」



恭吾君は、自分の人差し指で私の唇に触れる。



ドキン



「…その時は…唇にキスしてあげるから♪」



「…!!!」



「クスクス…相変わらずその反応凄いね。それじゃ」



グイッと私は恭吾君の腕を掴むと抱きつく。



「絶対に…助けて…」


「分かった…悠菜ちゃんはくれぐれも無茶をしない事。良い?」


「うん…恭吾君も無茶しないで…」

「うん。分かった。じゃあ」



頭をポンとすると私の前から恭吾君は去った。



「恭吾君…」




その直後だ。



グイッと背後から口を塞がれた。



「大人しくしな!」



「……………」



私は怖くて仕方がなかった。


だけど、恭吾君の言う通りに彼等に従う事にした。



私達はお互い信じ合うしかなかった。









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