第5話 進級

春。4月。高校2年生。



夕方〜夜。


寮生のみんなとテーブルを囲み食事をしている時の事だった。



「ヤッター!今年は女子が増えたーっ!」と、私。


「良かったじゃなぁ〜い!」と、栄次さん。


「はいっ!超ラッキー♪」



「どんだけ喜んでんだよ!」と、竜神君。


「今まで、一人と変わらんかったからな」と、康介君


「そうそう!そういえば栄次さん、ここの寮は1年生の寮なんですよね?」


「そうなんだけど、今年の1年生の寮生はいなかったから〜」


「えっ?でも、2年、3年の寮もあるって事なんですよね?」


「勿論、あるわよ〜。だけど、そっちは部活生やマネージャーのみの寮だから。帰宅部の寮と1年生の寮は学年問わず、こっちになるのよ〜」


「じゃあ、今年も同じメンバーなんですね」


「そうよ〜。今の所は同じメンバーしかいないから〜」


「そうか」


「悠菜ちゃん、可愛いから今年、マネージャー立候補したら?新しい出会いあるかもしれないよー」



恭吾君が言ってきた。



「出会いか…私…求めてないから」


「えっ?勿体ないよ。青春楽しまなきゃ」と、恭吾君


「いや…恋に悩みは付き物だから」


「じゃあ、ここの寮生の中から彼氏見付ける?」


恭吾君が言う。




「えっ!?いや…みんな良い人で悪くないんだけど…個性的過ぎて…」


「個性的ぃっ!?」と、竜神君。


「うん」




確かに今年こそは彼氏ゲット〜と思うものの良い人はいないし、気になる人もいない。




だけど――――




食事を済ませ、各々の自由時間。


一階のリビングに竜神君、康介君、亮平君がいた。


テーブルを囲み、カードゲームをしている。


どうやらトランプのようだ。


偶々、近くにいた私は、3人の様子を見ていた。



「竜ちゃんの負けーーっ!」と、康介君。


「えええーっ!マジかよーーっ!ついてねーーっ!」


「つー事で罰ゲームやで!」


「はいはい。どうぞ!」




すると、3人の姿を見ていた私に視線が集中した。




「な、何?」


「悠菜ちゃんをぎゅっと抱きしめる!」と、亮平君。


「えっ!?」と、私。


「だ、抱きしめるっ!?」と、竜神君。



「それエエなっ!女の子やからエエやろ?」

「そうだよ!竜ちゃん!」

「チューしろ!やないねんから」


「チュ、チューって…」と、竜神君。


「そ、そうだよ!そんな…」と、私。



私と竜神君は、顔を赤くしつつも二人の言葉に戸惑いながら…



「一層の事、キスしたらー?」



ドキッ

突然の言葉に驚く私。



「恭、恭吾君っ!?」


「超、真っ赤だし。本当、純なんだからー」



そう言うと、恭吾君はグイッと私の肩を抱き寄せ髪にキスをした。



「!!!!!」



「恭ちゃんっ!」と、竜神君。


「竜ちゃんの代わりにしておいたよー」と、恭吾君。




すると、スッと人差し指を私の唇に触れるか触れないかの距離感におく。



「唇は」



その人差し指を恭吾君自身の唇に触れる仕草を見せた。



「後悔しない人としないとね♪」



と、言うとウィンクをし、そこから去った。




「恐るべしや…」と、康介君。


「確かに…違和感なくやりこなす恭ちゃんキャラは半端ない…俺には無理だ…」


亮平君が言った。



「俺も無理や…」



「……………」



「あっ!ほら!感心してる場合ちゃう?」


「そ、そうだよ!竜ちゃん罰ゲーム!」


「えっ?あ、いや…」



そう言う、竜神君を私の元に連れて来る。



「……………」



「ほらっ!」


「わ、分かったよ!ちょっと失礼っ!」


「えっ?あ、うん…」




スッと抱きしめた。



ドキッ

胸が高鳴る。



そして、離れようとする竜神君を更に二人が私達をサンドイッチ状態にするように両脇から押す。



「うわっ!」


「きゃあっ!」



更にぎゅうっとなる私達。



「お前らっ!」



バッと離れる二人。



「女の子なんやから」


「もっとぎゅうっとしなよ〜」




二人にからかうように言われた。


私はドキドキがおさまらない。



「わ、悪い…」


「う、ううん…」




抱きしめられた体温を感じ、私は自分の部屋に足早に戻る事にした。





その途中―――



壁に寄りかかり腕組みして立っている恭吾君の姿があった。



「恭吾君…」

「気になるの?」

「えっ?」

「竜ちゃん」


「えっ?いや、別に」

「クスクス…じゃあ…一歩手前かな?」

「いや、本当に違うから」


「そう?アイツ対等だからねー。身近すぎて本人は気づ付かないと思うよ」


「だから違うってば!」

「そう?」

「うん」


「悠菜ちゃんも自分の気持に素直になりなよ」

「だーかーらー」

「はいはい。これ以上は言わないよー」




そう言うと、頭をポンとすると去って行く。





――――そう



まだ――――



―――気付いていなかった―――――



自分の想いに――――


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