第41話 フレンチトーストは胃の中に消えた

 フレンチトーストを作っている間に、自分の分を一枚食す。


 甘く柔らかい触感。

 蜂蜜が絡み合ったフレンチトーストは、声を上げるほど甘く、そして

美味しかった。

 焦げ目がまたいい。

 うん。これだけ美味しかったらリーゼも喜んでくれるのも分かる。


 一枚食べ終え、僕の仕事を再開させた。

 本番はここから。

 後二十ある食パンをフレンチトーストに変身させる作業は続くのだ。

 いつものようにフライパンを二枚使用し、さらに購入してきたIHクッキングヒーターを床に置いて、幻の三枚目のフライパンを戦場に出す。


 これでいつもより僕は戦える。

 新たな力で僕はフレンチトーストを生み出せる!


 なんて一人テンションを上げてフレンチトーストをドンドン焼く。

 焼いて焼いて、出して焼いて。

 そんな作業を一時間半ほどすると、とうとう食パンが底を尽きる。

 六枚入りの食パンが二十。

 計百二十枚のフレンチトースト。

 さすがにこれだけの量があれば――


 しかし、僕はリーゼの食欲を前にして膝をついた。

 リーゼは難なくフレンチトーストを完食してしまったのだ。


「もう終わりか?」

「はい。残念ながら」

「ど、どれだけ食べるの、リーゼ?」

「んー……まだイケそうだな」


 あまりの食欲に振るえる山下。

 僕は絶望する。

 これでもまだ足りないというのか?

 彼女の底が知れない。

 今度からは一斤単位で売っている店に行こう。

 

「お皿洗うからさ、ゲームやっててよ。それが目的なんでしょ?」

「そうそう! 私は朝食を食べに来たわけじゃないんだよ。リーゼとゲームをしに来たの!」

「そうだったな。じゃあやるか」


 テレビの電源を入れ、ゲームを開始するリーゼと山下。

 僕はゲームの音楽をBGMに洗い物をする。


 もう朝からクタクタだ。

 フレンチトーストなんか簡単に出来るのに、案外疲れるものだな。

 でも心地よい。

 嫌な疲れじゃない。

 好きな人のため、好きなことの疲れなら気持ちがいいぐらいだな。


 洗い物を終え、部屋に戻る。

 二人がやっているゲームは、複数人でモンスターを狩るというものらしく、リーゼは必死でモンスターと戦っていた。


「くそ……直接なら、こんな程度簡単に倒せるというのに」

「直接ってどういうこと?」

「あー、別に。なんでもない」


 リーゼの言葉に反応する山下。

 だが山下はゲームに夢中らしく、深く追求するようなことはなかった。


 僕は二人がゲームをやっているのを横目に、着替えを取り廊下に出る。

 そこで着替え、そしてそこからゲームの見学をした。


「旦那くんはゲームしないの?」

「んー、あんまりしないな。やってもいいけど、それよりはリーゼのために成長したいんだよ」

「あー、ミスした。耕太の所為だからな」

「なんで僕の所為?」


 リーゼは赤い顔でプンプン怒っている。

 山下は笑いながらモンスターと戦っていた。


「愛されてるね~リーゼちゃん」

「うるさい。さっさとこいつを倒すぞ」


 山下は本当にゲームが上手い。

 リーゼが苦戦している隣で、遊びながら敵と戦っていた。

 途中で踊ったり、挑発したり……

 というか、さっさと倒したほうが次いけるからいいんじゃないの?

 そんなことを思いながらゲームを見ている僕。


 途中から料理本を取り出し、レパートリーを増やすことに時間を費やすことに。

 ゲームを見学しているのも楽しいけど、そんな誘惑に負けないように自分を研磨しなくては。

 僕はまだまだ成長できる。

 成長して成長して、それでリーゼの隣に立つに相応しい男になるのだ。


 え? 何? あの美男美女?

 などと言われるのが僕の目標だ。 

 だが美男は無理があるだろう。

 だって普通なんだもん。僕は。


「あー楽しかった。また夜にでもやらない?」

「ダメだ。また朝ならやってもいいがな」

「分かった。じゃあまた明日も来るね」


 ゲームを終え、二人はまた明日の約束をしていた。

 ってか、また明日も来るんだ。

 別にいいけどさ。


「そろそろ学校行こっか」

「そだね。これぐらいなら急がなくても十分間に合いそうだね」

「ああ。急ぐのはどうも好きじゃない。のんびり行こう」


 僕たちは家を出て、学校へと向かう。

 これからは山下がいるのも当たり前になるのだろうか。

 別にいいけどさ。

 でも……リーゼと二人っきりで登校もしたい!

 しかしリーゼにも交友関係というものがあるのだ。

 夜は僕のために時間を空けてくれているんだから、これぐらいは我慢しよう。

 と言っても、山下のことは嫌いじゃないし。

 むしろ好きな部類に入るし、全然いいんだけどね。

 ただたまにはリーゼと二人で登校したいというだけ。


 リーゼを山下と二人で挟んで歩き、僕らは教室に到着する。

 教室に入ると、リーゼを取り囲む女子たち。

 学校では完全に皆のものだな。

 人気者の奥さんを持って鼻が高い! 

 そういうことにしておかないと、寂しくて死んでしまう。


 僕は苦笑いしながらリーゼの姿を遠くから眺めていた。


「ねえ、屋上で蓮見のこと待ってるんだって」

「……誰が?」

「ん? 行ってからのお楽しみ」


 一人の女子が僕にそんなことを伝えてきた。

 前も似たようなことがあったはずだが……

 僕は嘆息しながら、屋上に向かうことにした。

 今度はどんな用事なんだよ。

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