第13話

 モカは僕に自分を重ねているのかな。

 聞かされる僕のことや、母さんと一緒にいる僕を見て自分にも……お母さんと一緒にいられる未来があるって信じてるんじゃ。

 母さんに抱っこされて寝ちゃってたのは、お母さんのぬくもりを感じ取っての。


 これからはモカをもっと部屋から出してあげよう。

 母さんにモカを可愛がってもらうんだ。

 母さんにはモカが、ミントの息子だってことはまだ言えない。言えるのはカレンさんが来夢にやって来た時。

 驚くだろうな、黒うさぎの本当の姿は男の子でお父さんが魔法使いだと知ったら。世界のどこを探したって、こんなドッキリは見つからない。


「大地君? どうしたの?」

「ごめん、モカのこと考えてた。思いついたんだ、モカのために出来ることを。間違ってるかもしれないけど、モカの気持ちがちょっとだけ……わかった気がするから」

「よかった、モカ君のこと見てくれてて。押しつけちゃったかなって気になってたんだ。大地君の家にって、ミント様が言いだした時はびっくりしたんだから」

「ミントってばモカのことでも魔法使ってたな。お泊まりセットには驚いたよ、ココ知ってる? ゲージがベッドになるんだよ。僕が布団で寝てる横で、モカはベッドでぐっすり」


 ココが笑いだしてつられて笑った僕。

 この頃は見慣れちゃったけど、和室にベッドがあるのって変だよね。小さくて可愛いベッドだけど、僕の布団と比べるとやっぱり変だ。

 ミントが帰ってきたら、布団に変えてもらうよう言ってみよ……なんて、僕のことで魔法を使わせるわけにはいかないな。


「あのさ、ココに聞いていいのかな。カレンさんが眠りについた理由を」

「大地君大丈夫? ミント様にバレないでしょうね」

「僕を信じてくれたんじゃなかったの?」

「ぐっ。女の子はきまぐれなのよっ‼︎ ……もう、話せることだけよ」


 ココってば。

 ツッコミを入れたりムキになったり忙しい子だな。

 気のせいか、来夢が賑やかさを取り戻した気がする。ミントがいないのに笑ったり、これからのことを話してるだけで。

 カレンさんが来たらもっと明るくなるのかな、嬉しそうなモカと……ミントってば、ふざけてる場合じゃなくなるよね。


「魔法の世界で時々生まれるのは、魔法を使えない存在ものだけじゃないの。体の色が薄く生命力もわずかで、なんて言ったらいいのか……淡く綺麗な姿をしているの。魔法の世界では、神様のように崇められる存在でカレン様もそのひとりだった。ミント様がいなければ、私は近づくことも出来なかったんだ」

「なんか……すごいんだな」

「そうなの。ミント様が近づけたのは、1番の魔法使いと呼ばれているからよ。ミント様と出会い、カレン様が望んだのは母親になること。わずかな生命力……子供を産むことは死を意味するのに。ミント様も覚悟はしていたのよ」


 そんな……死ぬかもしれなかったなんて。

 命を繋ぎとめてるのはなんだろう。このまま眠り続けるかもわからない。それでも、カレンさんの命を守っている何かがある。

 願いの力なのか、違うものなのか。

 わからないけどひとつだけわかることがある。想い繋がる力ってすごいんだな。助けあっていける……わかりあっていける。


「もういいかな? 私が話せるの、これくらいなんだけど」

「うん、ごめん。ミントにバレたらココに迷惑かけちゃうな。来夢、クビにされたらどうしよう」

「それはないと思う。けどミント様は憂鬱な気持ちに包まれるかも。ふざけてるようでも繊細なのよね。駄洒落が滑ればガックリしてるし、名前をネタにされる私の身にもなってほしいな」


 『ここにあるのはココが作った』っていうやつか。

 怒ったふりして嬉しいくせに。兄のような友達のようなミントは、ココにとって大切な家族なんだから。 


「ココ、そろそろお店開けるんだろ? ありがとう、僕のために」

「それなんだけど、ちょっと待ってて。せっかくだから見せてあげようと思うの。魔法の世界への入り口を」

「いいの? 水溜りだろ? 僕が間違って入っちゃったら」


 泳げないんだよな。

 魔法の世界に着く前に溺れたらどうしよう。ミントが助けてくれればいいけど、それでまた魔法を使わせちゃったら……申し訳なくて会わせる顔がない。


「大丈夫よ、見張りがいるもん。来夢のお巡りさんみたいな感じかな。ついて来て、大地君」


 ココに手を引かれるまま、店の裏に入り細い通路を歩いていく。ホイップクリームを思わせる真っ白な壁。

 角を曲がって見えたチョコレートみたいな色の大きな扉。


「この中に、魔法の世界への入り口が?」

「そうよ。ケーキやお菓子も、ここから運ばれてるの。よいしょっとぉ‼︎」


 開かれていく扉と、僕達を照らしだした金色の光。


「眩しい……なんだこれ」

「魔法の世界を包む光。言ったでしょ? 魔法の世界には夜が来ないって」


 目を細め見えた水溜り。

 金色に輝いた水面と、室内を包む甘い匂い。


「ココ、お客様でチュウ?」


 可愛らしい声が響く。

 チュウって何?

 まさか、ネズミが喋ってるとかないよね?


「ピケ、お仕事お疲れ様。日向大地君、来夢の常連さんよ」


 ココの視線を追い見えた1匹のハムスター。

 なんで眼鏡かけてるの?

 今にもずり落ちそうなんだけど。


「はじめましてでチュウ‼︎ お客様、ピケの友達になるでチュウ?」

「ピケったら、遊んでないで元の姿になって。魔法を使っちゃって……ミント様にバレても知らないから」

「この姿、ミント様のお気に入りなのでチュウ‼︎ ……と、冗談はさておき」


 ボンッ‼︎


 大きな音を立てて、ハムスターが男の子になった。

 金色の髪、僕と同じ背の高さ。慣れた様子で背中を向けたココと、恥ずかしがる様子もなく服を着始めた男の子。


「君驚かないんだな。びっくりした顔見たかったのに」

「ごめん、変身するのモカで見慣れてるから」

「そっか、ミント様が言ってたっけ。モカ君元気にしてる? 僕はピケ、魔法の世界の住人だよ。来夢の見張りをしてるんだ。会えて嬉しいよ、君と話したいって思ってたんだ」


 ズレた眼鏡をかけ直し『これ、似合うかな?』と聞いてきた。モカのリュックサックや服みたいに眼鏡の大きさが変わるのか。



 明るい笑顔を前に思う。

 ミントは幸せだな。

 こんな……あったかい家族に囲まれちゃってさ。








 次章ミントと眠る……


【ミント視点】



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