第5話 ロブ5

「しっかし、オーガの首のかてぇのなんの。俺が思いっきりグレートソードを叩き付けてやったのに半分ぐらいしか切れなかったんだぜ」


「アゴットは少し剣の手入れを怠っているんじゃないかな。自分のロングソードでも同じくらいまでは切れたんだからね。それに2体目は突き刺さった深さで言ったら、ロブの剣が一番深くまで突き刺さっていたよ」


 酒を飲みながらそれぞれの武勇伝を語る。依頼が終わって、こうしてみんな無事に帰ってうちあげをやる時の醍醐味だ。それは自分たちが倒した敵が如何に強かったかも含まれる。


 ロブはどちらかと言うと聞き役に回ることが多い。自分の力で倒したという実感が少ないせいかもしれない。


「今回も結構ロブは活躍したのね。アゴットも、もうCランクなんだから敵に武器をふるう事ばかりでなく、もうちょっと色々と考えて行動したらいいのに」


「いや、活躍と言う程、活躍はしてないと思うがな。まあ、他のみんなに負けないようには頑張ったが」


 そうロブが答えると。


「何を言ってるの。敵にダメージを与えられるようにしたのが一番の活躍じゃない。ロブはリーダーなんだから。もう何回も言ってるでしょう。それが分かってなくてCランク昇格試験に落ちるパーティーが如何に多い事か。そう言ったパーティーに限って腕自慢が多いのよね」


 ララはため息をつく。基本的に同ランクのものが4人以上いれば一つ上のランクとみなされる。例えばFランクの冒険者4人組だったらDランクパーティーといった具合だ。だがCランクからは自動的ではなく、きちんと昇格のテストが行われる。それはDランクの者が4人集まったとしても、バラバラに戦っていてはCランクのモンスターを倒せないからだ。

 パーティーのランクと言うのはモンスターと同レベルではない。依頼を継続してこなせなければ意味がない。冒険者ギルドとしても冒険者を使い捨てにする訳にはいかないのだ。それがあってのランク制である。


「まあ、ロブの良さは出来れば広まって欲しくないねぇ。それこそ引き抜かれでもしたら困っちまう。自分も含めとっさの判断はロブにはかなわないからねぇ」


「お前たちの仲間として足を引っ張らないよう考えてる内にそうなっただけだよ。威張る事じゃない」


 リストの言葉にロブはそう反論する。実際からめ手を使わなければCランクの仲間とは対等に戦えない。


「過度な謙遜は美徳ではなく、嫌味にとられかねませんよ。大体、アゴットはちゃんとしたCランクの戦士です。大抵、手も足も出せずにロブには負けてしまうんですから、アゴットを見習えとは言いませんが、もっと堂々としていても良いと思いますよ」


 ケルンが言い聞かせるようにロブに言う。


「手も足も出ないとは言いすぎだろう。10回に1回、いや20回に1回ぐらいはロブに勝ってるぜ」


「それは、世間一般で手も足も出ないと言われるレベルだと思うわよ」


 ララがアゴットの反論に、素早く突っ込みを入れる。


「まったくだね。せめて、5回に1回は勝てるようにならないとね。アゴットはロブの謙虚さを少しは見習うべきだね」


 そう言って、パークは笑い出す。


 仲間たちとの楽しいうちあげの時間はあっと言う間に過ぎていく。うちあげが終わった後、アゴット、パーク、リストは2次会、と言っても今回は久しぶりに実入りが良かったので娼館だろう、に行く。ケルンは真っ直ぐ借りた家へ、そしてロブはララを孤児院へ送った後、別の仕事場へと行く。

 仕事とはマジックアイテムを作っている錬金術師の所で、魔石やマジックアイテムに魔力を込める仕事だ。別に仲間に秘密にしている訳ではないが、冒険や日常生活に支障のない、自由時間にやっていた。

 最初はいくら自由時間と言っても、パーティーを組んでる以上ある程度報酬を渡そうとしたが、仲間も自由時間にやることだからと言って、受け取らなかった。その代わり、無理はしないと言う約束だ。


 街の外れの方にある大きな倉庫のような建物の前に来る。夜もだいぶ遅くなっているが、まだ中に明かりがついていた。扉を叩くと、暫くしてドアが開き、中年の男性が現れる。世間一般の錬金術師のイメージと違い、どちらかと言うと貴族の執事と言う風な感じの男性だ。服や髪はきちんと整えられていて清潔感があふれている。


「やあ、ロブか。丁度良かった。魔力を大量に消費するマジックアイテムの研究をやり始めていてね。魔力がいくらあっても足りない状態だったんだ」


「夜分遅くすいません。ヒュートさん。それじゃあ、結構、空の魔石は溜まってますかね」


「溜まってるどころか、もう魔力が貯めてある魔石が無いんで、明日にでも冒険者ギルドに依頼しようと思ってたところだよ。いやー助かった」


 ヒュートはそう言って機嫌よく笑う。実際ロブはCランク冒険者の魔法使い4人分ぐらいの魔力を込めることが出来る。Cランクの魔法使いを雇う場合は、いくら命の危険はないと言っても、単独の魔法使いがそうそういるわけでもなく、また、帰って来た時に魔力を込める余裕のある魔法使いもそんなに多くはない。

 低ランクだと何人も雇わなければいけないし、低レベルのパーティーは毎日のように仕事をしなければ食べていけないので、冒険に出られない日の他のパーティーメンバーの分まで支払わなければ、誰も依頼を受けてくれない。そもそも魔法使い自体がそんなに大勢いるわけではない。

 そんなわけで魔力を持て余しているロブの存在はヒュートにとって有難いものだった。何せ相場の半額以下で魔力を込めてくれるのである。ロブにとっても使い道の無い魔力が、金になるのでありがたかった。本来なら冒険者ギルドを通さない直接依頼は、お金を踏み倒されたり、揉め事になる心配をしなければいけないのだが、ヒュートは孤児院に寄付をしている人物であり、小さい頃から知っている人物だったのでその心配が無いのも良かった。


「じゃあ、ちょっと待っていてくれ。取りあえず魔石に魔力を込めてほしい」


 そう言ってヒュートは奥からからの魔石の入った箱を持ってくる。一抱えある大きな箱にぎっしりと空の魔石が入っている。


「これは今日だけでは終わりませんね。明日は依頼明けで休みですし、明日また来ても良いですか?」


「ああ、構わないとも。ぜひお願いするよ」


 ロブはからの魔石を手に取り、次々に魔力を込めていく、完全に魔力を使い切ってしまうと疲労で動けなくなってしまうので、ちょっと疲労を感じるようになるところで、魔力を込めるのをやめる。それでも、元々の魔力に加えて戦士並みの体力もある為、他の魔法使いに比べたら、かなりぎりぎりの量を使うことが出来た。


「相変わらず、凄い魔力量だね。私にこれだけの魔力があったら、もっと研究もはかどるのに。どうせなら、冒険者をやめて私の助手になるつもりはないかい。大儲けは出来ないかもしれないけど、それなりの給料は払うつもりだよ」


 嬉しい申し出だったが、正直、魔力を込める以外、学の無い自分は役に立たない。錬金術師になるにはもっと小さい頃から錬金術師に弟子入りするか、王都にある学校で学ぶしかない。毎日、魔力を大量に消費する物とかが有れば別だが、今のところ必要な量は月に5銀貨、多い月で10銀貨ぐらいだ。1人暮らしなら十分だが、結婚するとなると心もとない。

 ロブは理性ではララの事を諦めなければいけないと思ってたが、まだ、心の中では何とかしてララと結婚したいと思っていた。



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