第4話 ロブ4

「相変わらず、ロブの指揮はえぐいな。いくらジャイアントスパイダーと戦っていたからって、こんだけの数のモンスターを無傷で倒しちまったぜ」


 アゴットが半分呆れたように言う。ロブたちは声に出してわざわざ指示を出さなくて済むように、幾つかの合図を決めていた。例えば指さしたところに短剣を設置する。ワイヤーを張るなど。覚えるのは確かに面倒だが、敵の近くでも声を出さずに罠を張れるのは大きい。そしてロブは罠を張るのが上手かった。結果は先ほどの通りである。


「まあ、自分があと、伸ばしていける分野は、これぐらいしかないからな」


 ロブは自分の限界を知った時、何度かパーティーを抜けようとした。しかし、抜けるどころか、いまだにリーダを任されている。任された以上は優秀な仲間たちを率いて恥ずかしくないような成果を上げるため、我流ではあるが罠の研究や戦術の研究に力を入れていた。

 そのおかげでCランクの冒険者が4人いると言っても、皆まだ若い割には、かなりの成果を上げていてる。倒したモンスターの強さはともかく、稼いでいる金はジクスのCランクパーティーの中では上位に位置するだろう。全員がCランクで構成されている、所謂シルバーランクと言われるCランクパーティーと比較しても決して引けは取っていない。


「短期間でこれだけ上手く指揮が取れるようになったんだから、軍とかに入ってたら結構、出世したかも知れないね」


 パークがアゴットに賛同して、そう言う。


「いや、孤児院出身の自分なんて、最初は雑兵も良いところだ。ここまで上手く罠を仕掛けることが出来るようになったのは、お前たちの協力も大きい。下っ端じゃ無理な話さ。それより素材と討伐部位をさっさと取り出そう。血の匂いに引かれて、モンスターが来たらシャレにならない」


 そう言って、ロブはオーガを解体し始める。きっとそれに、自分は少人数の指揮を執れたとしても、大人数の指揮は執れないだろう。口には出さなかったが、何となくロブはそう感じていた。


 次の日、8回の鐘が鳴るころにジクスにたどり着く。受付にはララがいた。薄茶色の髪と綺麗な水色の瞳を持った可愛らしい女の子だ。もう18になる女性に女の子と言うのもなんだが、自分の中ではそうだった。何人もいる受付嬢の中でも人気が高い方だ。実際、今3人の受付嬢が並んでいるが、ララの列が一番多い。自分もそんなララの列に並ぶ。ララは仕事もできるようで、自分の番は、自分より先に他の列に並んでいた者より早かった。


「よう、久し振り。依頼を完了したんで、処理してくれ」


「はい。オーガ1体の討伐ですね。変更点はありますか」


 ギルドの外では、普通の言葉で話し合う仲だが、今は仕事中である。まあ、中にはそうでない受付嬢もいるが、プライベートと仕事をきちんと分ける彼女をロブは好ましいと思っていた。


「実際はオーガが3体いた。偶然、ジャイアントスパイダーと交戦中だったんでな。隙を見て倒したよ」


「それはすごいですね。大成果じゃないですか。では、交換所の方で討伐部位の提出をお願いします。依頼の方は完了と言う事で、そちらの報酬はお渡ししますね」


 ララから報酬を受け取る。運のいい奴めとか、あの人以外全Cランクなんだから当然よ、とかいう声が聞こえるが、いまさらの事だ。ロブはさっさと交換所に向かう。


 交換所の方に行くと初老の男性数人が、素材の買取や、討伐部位の確認をしている。他の部署はともかく、鑑定などはそれなりの経験が必要なため年配の者が多い。


「ふむ、オーガ3体の討伐部位に、牙、角、爪、ジャイアントスパイダーの足の爪、と棘か。

オーガ1体の討伐は報酬が出てるから差し引いて、丁度30銀貨ってとこじゃな。結構、稼いだのう」


 3日間で60銀貨、使い物にならなくなった短剣、矢や食料などの消耗品を差し引いても1人10銀貨以上ある。下手な兵士1ヶ月分の稼ぎだった。


 ロブは仲間のところに戻り結果を報告する。ヒューっとアゴットが口笛を吹く。


「今回は運が良かったからな。分け前は1人10銀貨、うちあげをやって残りはパーティー貯金で良いか」


 そうロブが提案する。誰も反対意見は出なかった。


「ララも呼ぼうぜ。うちあげは何時もの”腹ペコ穴熊亭”だろう」


 アゴットがそう言う。”腹ペコ穴熊亭”は表通りから少し離れた肉体労働者が多く集まる店でリーズナブルで美味しい店だ。それに冒険者が少ないのも良い。よほどのことがない限り絡まれる恐れがあるので女性は来ないが、流石にCランクの冒険者の知り合いに手を出す者は殆どいない。

 全くいない訳ではないと言うのが悩ましいところだが、それを言うなら、女性が他の店に1人で行くのも変わらないぐらいの危険性がある。それにララはギルドの受付嬢であり、ちょっとした護身術程度なら使えた。

 ララがこちらを向いたときに、決めて置いたサインを出す。ララもサインを返す。どうやら問題ないようだ。

 ロブたちは借りている一軒家に荷物を置いて一休みし、”腹ペコ穴熊亭”へと向かう。いくら多少、護身術を使えるとはいえ、大通り以外に女性を1人で行かせるのはためらわれるので、ララと一緒に行く時は、途中で待ち合わせていくことにしている。自分たちがついてすぐ位にララがやってくる。丁度良い時間だったようだ。


「ロブ、凄いじゃない!オーガ3体にジャイアントスパイダー1体でしょう。しかも全員、無傷でしょう」


 ララが冒険者ギルドの時のようなかしこまった言葉づかいではなく、親し気に声を掛けてくる。


「みんなのおかげだよ。運も良かった」


 ロブはそう言って、軽く首を振る。


「またそう言う事を言う。毎回毎回そんなに運が良いことが続く訳がないじゃない。まあ、流石に今回は私も運が良かった面はあるかなとは思ってるけど。運も実力の内でしょう。アゴットみたいにもっと威張ればいいのに」


「おいおい、どいう言う意味だよ。俺はそんなに威張ったことはねえぜ。まあ、ロブはもっと堂々としてても良いとは思うがな」


 アゴットがララに抗議する。勿論、本気で言ってるわけではないが。


「知らない人が見たら、女性に詰め寄ってるならず者にしか見えませんでしたよ」


 ケルンが横から半分笑いながら言ってくる。


「まあまあ、今から騒がなくても良いだろう。さっさと行こう。席が埋まってしまう」


 そう言って、ロブは”腹ペコ穴熊亭”へと歩き始めた。


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