第3話 ロブ3

 夜明け前、空が明るくなり始めるころには冒険者は自然と目覚める者が多い。ロブの仲間は全員そうだ。夜が明けるまで、寝ている間に固くなってしまった筋肉をほぐし、毛布を畳んだり、装備を点検したりして出発の用意をする。夜が明けると出発だ。

 目的の場所までは鐘一つ分掛かるかどうかだ。森の中に入ると慎重に足を進めていく。幸いにもオーガの痕跡は直ぐに見つけることが出来た。明らかに森の中に人よりも大きな者が通った跡があるのだ。自分たちの頭より高いところにある木の枝がおられていたり、自分達ではよけて通りそうな木が倒されていたり、と言った感じである。枝の倒れた方向でどちらに行ったかを予測する。

 しばらく行くと、食い散らかされた大型のクマの死体があった。まだそんなに時間は経っていない。オーガは雑食性だが、基本的に肉を好む。だが、罠を仕掛ける程、知恵がある訳ではない為、巣にこもった小動物か、自分を襲ってくるような大型の動物や知恵の無いモンスター、そして逃げ足の遅い人間を襲う事が多い。


「結構近くいそうだな」


 クマの死体を調べたロブが呟く。死体の状態から言っておそらく2日と経っていないだろう。だがその死体の散乱の様子が少し気になる


「もしかしたら、2体で行動しているかもしれない。無論、野生動物が後で食い散らかした可能性はあるが、どうも、二つに分けたような感じがある」


 例えば、クマの手足がちぎられ、別々の場所にある。それだけならともかく肋骨も別々の所にある。野生動物が食い散らかしたにしては、少し不自然だ。


「オーガが複数?珍しいこともあるもんだね。どうする?2体までなら倒せないこともないと思うけど、3体以上になるとさすがに厳しいんじゃなかな」


 ロブの分析に、パークが答える。オーガは基本、単体行動をとるモンスターだ。ただ、偶に団体行動を取ることがある。その場合、強い個体に統率された3体以上の集団と言う事もありえた。”緋色の剣”は4人のCランクの人間がいるが、Cランクの人間と言うのは、Cランク相当のモンスターと同等の力量を持つと言うだけであり、戦えば単純にいって半々の確率で死んでしまうのである。なので3体のオーガとなると、倒せない事は無いだろうが、仲間に被害が出る可能性があった。ましてや4体となると、追い込まれた状況ならともかく、冒険者として戦うのは避けるべき事だった。


「その辺りは臨機応変で行こうぜ。分からないものを今から考えていても仕方ねぇ」


 アゴットはどちらかと言うと、早くオーガを見つけたいらしい。


 まあ、先ずは見つけることが先決か、と考えロブはそのまま痕跡を追跡することにする。暫く進むと、唸り声が聞こえてくる。まだこの位置にいると言う事は、偶々この辺りに出てきたわけではなく、この辺りを住処と決めたのだろう。あまり嬉しくない状況だ。なぜなら倒さなければいけない必要性が上がる為、簡単に逃げる訳にはいかなくなるからだ。

 もし逃げ帰ったら、状況がどうあれ、間違いなくロブが足を引っ張ったと陰口をたたかれるだろう。勿論、自分への中傷と、仲間の安全では比べるべくもないが、かと言って全く気にならない、と言う訳ではないのである。


 唸り声のする方に近づいていくと、3体のオーガがいた。ジャイアントスパイダーと戦っている。1体は毒にやられたのか片足をついているが、残り2体はジャイアントスパイダーと戦っていた。同じCランクモンスターに接近されてしまい、しかも2対1となるとジャイアントスパイダーの方が旗色が悪い。下手な鎧よりも強靭な外骨格と驚異的な再生能力でまだ戦ってはいるが、決着は時間の問題のように思えた。


「またとないチャンスだ。ジャイアントスパイダーと戦っているうちの1体を攻撃しよう。上手くすれば、1体ずつ各個撃破できるかもしれない」


 ロブは弓を構える。ロブが使うのは体格にふさわしい大きな弓で、素早さ重視の盗賊職が使うものより威力も強い。ロブが弓を構えるのと同時にケルンとリストが細い鉄線を木々の間に張り、オーガの首のあたりの高さに調整する。アゴットとパークは予備の短剣を地面に刃が上向きになるように何本か設置していた。

 罠の設置が完了するのと同時に、ロブは弓を放つ。狙い違わずオーガの首に当たるが、分厚い皮膚に阻まれ、致命傷にはほど遠い。だが、オーガの注意を引き付けることはできた。1体のオーガがロブの方にやってくる。他の4人は既に木の陰に隠れている。

 オーガが雄たけびを上げて、ロブの近くに来た時、仕掛けた鉄線がちょうど首に当たる。普通の人間なら死んでいてもおかしくないところだが、オーガの首に一筋の切れ目が入っただけで、鉄線はそのまま引きちぎられる。ただオーガの突進速度は遅くなった。ロブにとってはそれで十分だった。

 転べば丁度、短剣が突き刺さる位置に足を置いた時、ロブは魔法を使い、地面を30㎝陥没させる。いきなりの地面の陥没に、オーガは対応できず、地面に倒れ掛かるが、流石に目の前に短剣が見えているため、両手を伸ばし、倒れ込むのを防ごうとする。普通なら、オーガの体格から言って、地面に両手をつけば短剣が刺さる事は無い。だがロブは無詠唱の魔法を連続して放ち、短剣の部分を30㎝持ち上げ、手を着く部分を30㎝陥没させた。

 オーガはどうすることもできず、頭に2カ所、首に1カ所、胸に2カ所短剣が突き刺さる。それでも頭は頭蓋骨によって、首と胸は皮膚と筋肉によって致命傷とはなっていなかった。起き上がりかけたオーガの首をアゴットとパークの剣が襲う。切断とまではいかなかったが、後から半分ほども首を切り裂かれては、流石のオーガも息絶えた。


 息つく暇もなく、毒を受けていたオーガがこちらに向かってくる。怒りに駆られてるのか、もう毒の影響が無くなったのか、先ほどのオーガと遜色の無い動きだ。しかし、ロブ達に近づいたところに、リストがホールドしておいた氷魔法を放ち、足を氷漬けにする。発動まで長い時間が掛かるが、ロブが使えない中級の強力な魔法だった。

 すかさず、ロブ、アゴット、パークが攻撃する。足が動かせない上に、3人がかりの攻撃である。オーガと言えどもあっけないほど短時間に倒される。


 残すところは組み合っているオーガ1体とジャイアントスパイダー1体だ、ジャイアントスパイダーは頭半分潰れ、8本ある足も4本千切れている状態だったが、まだ戦っていた。オーガの方も粘り付く糸のせいで思うように動けないようで、随分、怪我を負っている。

 どちらとも、こちらを気にする余裕はなさそうだ。ロブとリストは両方が同じくらい弱るように、炎弾と言う小さな炎の魔法を撃ち続け、遠距離から両方の体力を少しずつだが奪っていく。もし人間ならば、目の前の戦いを棚上げにして、こちらに向かってくるのだろうが、意思疎通のできないモンスター同士ではそれはできない。何発もの炎弾を放つ。魔力の関係からリストの方が先に止まっても、ロブは変わらず打ち続ける。

 オーガがジャイアントスパイダーの首をもぎ取り、とどめを刺した時には、オーガの足も炭化して既に立てなくなっていた。その他の部位の損傷も激しい。両腕を地面に着き、息をするのもやっとと言う感じだ。

 最後のオーガは、ジャイアントスパイダーを倒した直後に切りかかった、アゴットとパークに抵抗らしい抵抗もできずに倒された。


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