第17話 ユクリアと危険な町 ② ~前線都市ラタイア~

「着いたな、ラタイア!」


 城下町を出発して(追放されて)数日、元 《不死の勇者》の俺とギルドメンバーランクEのモブであるユクリアは、この王国でモンスター支配地域に最も近い都市、ラタイアに到着した。


「思ったより怖くないですね」

「そうだな、こんなに人がいるのは驚きだ」


 町の様相はというと、市場だとか通りには城下と同じように人も多く、前線とはいえ人は変わらず生活しているようだった。


「でも、兵隊さんはとっても多い……やっぱり怖いかもです」


 普通の生活を営む人も多いが、町のところどころに数人の兵士も固まって立っている。

 これはやはり前線都市の物々しさといったところだろうか。


「まあ、ラタイアとは言っても毎日モンスターが出るわけじゃないから安心していいぞ」

「城下じゃあこんな兵隊さん歩いてないのにい」


 臨戦態勢な町の様相に、ユクリアは落ち着きを失っている。

 そんな俺の視界の端にカットフルーツの屋台が目に入った。


「でもな、カットフルーツの店までやってるんだぞ。危ないわけないじゃないか」


 俺の謎理論にユクリアは困った声を出した。そこに畳み掛ける。


「好きなフルーツ買ってやるから、な、どれがいい?」


 もはや赤子の気をそらそうとする親の気分だ。しかし、ユクリアの目は輝いた。


「依頼主に施しを受けるわけには……じゅる」


 前線の兵のためにラタイアには多くの物資が集められる。それはフルーツも一緒らしく、城下でお目にかかれないフルーツも並んでいることに気づいていることだろう。


「俺の旅の気分を上げるためだよ、一緒に食おうぜ?」

「じゅる……依頼の一部というわけですね。それなら一緒にたべることにします」


 なんとか彼女の説得に成功し、俺たちはその屋台へと近付いていった―――のだが。

 へいらっしゃい!と屋台の主の気持ち良い挨拶が飛んできたその瞬間、市場の通りの奥から怒号が飛んできた。


「モンスター2匹出現!!!町に侵入!!!」


  鎧も付けていない血濡れの兵士がそう叫びながら走ってくる。そしてそのすぐ後ろから―――家ほどの大きさのモンスターが2体、通りへと飛び込んできた。

 モンスターは出現するなり、雄叫びをあげた。その声は市場だけでなく町全体に響き渡るほどの大きさで、通りにいる人々は悲鳴を上げ逃げ始める。


「市民は逃げろ!おい、戦闘準備だ!」


 市場の中央に居た司令官らしい外見の兵士が叫ぶと、先ほどまで通りで散り散りに立っていた20人ほどの兵士たちがそこへ集まっていった。

 それを俺とユクリアはカットフルーツ屋台の前で突っ立ったまま眺めていた。


「アレスさま」


 ユクリアがこちらを見つめた。


「なんだ、フルーツか?ほら」


 店主が逃げ出した屋台から、器に盛られたフルーツを差し出した。


「そうじゃなくて。さっそくモンスターが出てますよ!」


 俺のジョークは一蹴された。


「しかも2体か、あいつらじゃあ無理かもな」


 モンスターの戦闘力は1体で《不死の勇者》1人に相当する。いろんな要素を組み合わせればそこまで単純な話ではないのだが、とりあえず兵士20人で対処するのが不可能なことだけは明白だった。

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