第16話 ユクリアと危険な町 ①

「ユクリア、水!」

「はあい」


 城下を出て、俺とユクリアは行く先を決めず道を歩いていた。今は、唐突に水を要求したところだ。しかしユクリアのリュックからはすぐに水が出てきた。便利である。


「ゴクゴク……」


 しばらく日よけもなく歩いていたので生き返る気分だ。町を出ると何もない街道が続くので、一休みする店も無ければ、腰掛けるベンチもない。


「疲れたな」

「アレスさま、荷物何も持ってないのにそれはないですよお」


 ユクリアは出発時のままに大量のカバン類を持っていたが、俺はといえばベルトの短剣くらいしか持っていなかった。

 自分の半分くらいの背丈しかないユクリアに引っ越し道具を全て担がせる男……まがうことなきクズになっている。しかも、先の長い旅路でだ。


「わ、悪かった……手伝おう」


 自責の念に耐えられなくなり手分けを申し出てしまった。


「でもいいです。お仕事ですからちゃんともっていきますよ」


 ユクリアは額にうっすらと汗を浮かべ、きりっとした表情で使命感にあふれている

―――なんて健気なんだ!

 突然旅に連れ出されて、大量の荷物を持たされているのにけなげに頑張っている彼女に心を打たれてしまう。そうさせている張本人は俺だが……。


「あ、アレスさま。道標がありましたよ」


 引き続きだらだらと歩いていると、視界に木の道標が入ってきた。

 近づいてみると、道標には近隣の国の名前と、ラキア王国の町の名前とが記してあった。


「ひい、ここから《ラタイア》って近いんですか」


 その「ラキア王国の町」の名前をみてユクリアはびくついた。


「そうだな、ここから2日もすれば着くだろ」


 《ラタイア》という町は、海岸に近く、このラキア王国の領内では一番に南の大陸に続く海峡と近かった。つまりモンスターの脅威とも一番近かったということだ。


「もしかしてアレスさま、ラタイアに行くつもりですか」


 ユクリアはぷるぷると震えながらこちらを見た。

 ラタイアでは、南の大陸と近いせいで、よくモンスターがふらっと出没していたので《勇者ギルド》ではラタイアへと訓練に行くのが慣例だった。多分ユクリアも例にもれずそれに参加しているはずなので、トラウマがよみがえっているのかもしれない。


「そうだなー、ここから行けるのは隣国かラタイアだけだし」

「そしたら準備もなしに国を出るわけにもいきませんよねえ」


 他国に行くか危ない町に行くか、という選択肢にいったんは納得するユクリア。

 ただ、少しするともう一つの選択肢に気付いてしまった。


「……アレスさま、いったん帰りませんか?」


「ダメ」


「ダメですか」

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