第13話 便利屋ユクリア ①

 ドンドンドン!

 年季の入った木の扉が、叩くたびに大きな音を立てる。多分だが扉を囲む土の壁もノックのたびに少し崩れている気がする。


「ユクリア!引っ越しを手伝ってくれ!」


 何度か扉をたたき続けていると、部屋の奥から物音が聞こえてきた。


「ちょっとうるさいですよ~!」


 扉の向こうから、足音とか細い声が聞こえてくる。

 なんだ、いるじゃないか。


「誰ですかブシツケな……あ、アレスさま!」


 出てきたのは、背が俺の胸のあたりまでしかない「おちび小間使い」のユクリアだった。

 彼女は、作業着とも子供着とも言えない分厚い生地の装いで、修理工や職人を思わせる服装ではあるが、色味がパステルで子供っぽさも抜けない。


「おおユクリア、でかくなったな」


 そう言って彼女の頭にポンと手を置いた。


「絶対思ってない!やめて!」


 か細くも大きな声で嫌がるユクリアは、すぐに俺の手を払った。

 手を払って、そのまま俺を見上げた。


「それで!今日のご用はなんですか」

「ああ、そうだ。今日は引っ越しをお前に手伝ってほしくてな」

「それはそれは!便利屋ユクリアの出番ですね!」


 ふんす、と彼女は鼻を鳴らした。両手を胸の前で「ぐっ」とやっているのが可愛い。


「ああ、お駄賃はいっぱいやるからな」

「報酬は後で請求します!さあ準備しますので少しお待ちを~」


 ユクリアはしっかりと表現を訂正してから「ててて」とものだらけで狭い部屋の奥に入っていった。

 そして、使い古した革のリュックと、前掛けカバン、大きな手提げ袋などいろいろなバッグを身に着けて、部屋を出てきた。


「さあ、準備万端です!」

「じゃあ頼むぞ、こま……ユクリア」


 この仕事が、俺の情けない立ち退きの手伝いとは知るはずもなく、ユクリアはとても張り切っている様子だ。恐らく久しぶりの役目なんだろう。


「いちばん最近は、いつ頼まれたんだ?」

「先々週に、パブのごみすてを頼まれました!あれは大仕事でした~」

「ごみ捨てって、そんなこともやってるのか」

「手広くやらないと便利屋は務まりません!」

「……そうだな、偉いぞ」


 目をキラキラさせながら言っている彼女に、俺は何も言えなかった。

 ただ、これが《加護》によって生き方が変わるこの世界のルールだった。

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