第12話 罵倒


『アレス、今日をもって君を《勇者ギルド》から追放する』


「え?」

「いつも思ってたんだ。お前はこのギルドの足手まといでしかない」


 突然の宣告に頭が真っ白になる。


「俺はみんなの為に……」

「まだ言っているのか」


 ふん、と鼻を鳴らすブレウス。


「お前は僕たちが世界を救う一歩を台無しにしたんだよ」

「だからそれは!」


 彼は俺の言葉を遮る。


「頭までおかしくなったらもう救いようがないよ」

「な……」


 怒りに体が熱くなるのを感じた。こいつ、とことん馬鹿にしてやがる。


「《加護》もちょっと風を吹かすだけの雑魚で、中途半端なのに《勇者》ヅラしてたのも本当うんざりだったよ」

「雑魚だあ?!」

「そうだよ。ほかの皆は百人力といっても足りない戦闘力を持っているのに、お前はどうしようもない」


 突然ぶつけられ始めた罵倒の数々に俺は言葉を失った。


「ホントね。私たちの陰でピューピューやってるだけよ」 


 代わりに馬でここまで追いついてきただろうセフィナが口を開いた。


「セフィナまでそんなことを」


 騎乗したまま俺を見下ろすセフィナに困惑する。


「僕たちは昔一緒のパーティで戦っていたから、ここまで情けはかけてやったけど」

「もう私たちは我慢の限界よ。荷物をまとめてギルドを出ていきなさい」


 ギルドの2トップである二人にこう言われてはもう抵抗のしようがなかった。


「……分かったよ。じゃあな」


 こういわれても別れを惜しむような俺だったが、二人はというとすっかり俺に見下す目をむけて、離別の言葉に返事もしなかった。

そんな彼らを背に、俺は悔しさを胸にトボトボとその場を去った。




 自宅に帰った俺は、まだ現実を受け入れることができなかった。

 一日の間に、タイムリープと追放なんてイベントを体験しまったのだ。

 もう頭の中もパンパンだった。まだ昼下がりだが直ぐにでもベットに飛び込みたい気分だった。

 ただ、出て行けと言われた以上、このギルドメンバーのために作られている住居群からは出ていかなければ、最悪起きた時にセフィナに殺されているかもしれない。

 それだけならいいが、大事な食器や家具、武器や防具も破壊されてしまうだろう。


「あの怪力女は脳内だけでも怖いな」


 俺を追い出した後、彼らは仕方なくモンスター達を追い返しに行くだろう。俺に残されたタイムリミットは、彼らの帰還までだということがわかった。


「さてどうやって荷物をまとめようか」


 独り言を言っても事態は改善しない。が、俺の脳内に一人の小間使いが思い浮かんだ。


「ユクリアに頼むか」


 そう思いついた俺は、すぐに家をでてユクリアの部屋へと向かった。

 《勇者》と違い、ギルド内のランクの低いものは一つの家ではなく、いくつか部屋が連なって作られる長屋に住んでいた。部屋を間違えないように丁寧に左のほうから扉を数えていく。

 そして『便利屋ユクリア』と幼い字で書かれた表札を見つけ、俺は力いっぱいノックをした。




 彼女のギルド内でのあだ名はやっぱり『小間使い』だったのだが。

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