第11話 追放


『このままじゃ今日、俺たちは全滅する!』


 俺の言葉は、ブレウスと近くの数人にしか届かないが、確実に彼らは衝撃を受けたらしい。ブレウスは表情を歪め、最前列の兵士たちも少しだけざわつき始めた。


「なにかあったの?」


 彼は俺の発言の意味を聞いたのだろう。ただ、全滅した未来から来たなんて言ったところで信じてくれるはずがない。


「とにかく分かるんだ!このまま戦ったら全滅するんだよ」

「なに馬鹿なことをいってるんだアレス。この作戦は完璧だ―――君のこの発言を除いてはね」


 彼は心底呆れた目つきで続けた。


「普段から馬鹿ではあったけど、ここまでとは思わなかったよ」


 こんな問答をしているところに、地味なギルドメンバーの兵士の一人がブレウスの前に出てきて、言った。




「なあギルドマスター、俺たちって全滅するのかよ?!」


 ―――直後、軍勢全体がどよめいた。


 彼の質問は、とくに大声だったわけじゃない。話の最中だった俺たちも軽く振り返

るくらいの声の大きさだった。

 ただ、彼がその言葉を発した瞬間に、数千の軍勢が一斉にどよめくのは理由が必要だ。


 そして前の方の兵士からは「全滅?!」「おい、何の話だ?」というような声が聞こえてきている。


 多分さっきの声は、軍勢全体に聞こえたのだろう。

 同じことをブレウスも察知したのか、かれも焦っている様子だった。


「何が起こっているんだ……」


 少しおろおろとしたあと、ブレウスは落ち着きを取り戻したことをはっきりとさせるように、咳払いをした。


「なあアレス、こんな状態じゃもう集団戦はできない」


 どうしてくれるんだ、と彼は続けた。


「だから、このまま戦ったら全滅するんだって’」

「お前がこんな状態にしなければ勝てたはずだ!僕の作戦は完璧だったんだよ!」


 ブレウスは喚いた。


「しかも、仮に全滅しようがしまいが、モンスター共が攻めてくるのはもう分かってるんだ!どうするんだよ!」


 彼は先程までクールに話していた同一人物とは思えないほど取り乱している。代わって、さっきまで焦っていた俺は冷静になっていた。


「それはあんたの《加護》でどうにかなるだろ、今日は決戦の日じゃなかったんだよ」


 ブレウスの《加護》は《防護の神》のもので、俺の知る限りでは、彼は防護壁や他人に防護のベールを与えることが出来るスキルをもっていた。

 それを駆使すれば、ある程度のモンスターの軍団ならば倒すことはできないまでも、侵略を諦めさせ、撤退させることならできる。これまでにも何度かそうやって「北の砂時計」とラキア王国は救われていた。

「あいつらの数は攻めてくるごとに多くなっている。今回でケリをつけるはずだったのに」

 ブレウスは嘆く。脅威は日々大きくなっていたので、彼の考えが間違いとは言えないが……

 すでに俺は結末を知っている。だから止めるしかない。


「とにかく今回は諦めてくれ」

「ああ―――そうするしかないね。だけど」


 これでひと安心だと思った。ただ、ブレウスは俺を睨みつけながら衝撃の言葉を放った。


 

「アレス、今日をもって君を《勇者ギルド》から追放する」

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