第1章 元勇者アレスの放浪

第9話 時を戻そう

―――これが《ラタイアイ平原》の決戦の数日前にあった出来事だ。

 話は戻って、知っての通り、《ラタイアイ平原の決戦》で人類は敗北した。



 巫女の前で格好はつけたものの、結局俺のスキルは強くなったわけでもなかった。

 つまり、巫女が告げたことは間違っていたのだ。

 俺はただ《復活の加護》を失っただけだった。

 そうして俺は死んだので、もちろん復活もできなかった。


 

 だったら何故いま俺は思考を続けられているのだろうか……?  

「アレス!!!!!!!」

「うわぁ!」

 甲高い声に俺は飛び起きた。


 

―――飛び起きた?


「いつまで寝てんの!間抜け!」


 ちょっと叫ぶのやめてもらっていいですか?思考を整理したいので。

 俺はギルド近くの自室で、ベッドの上にいた。

 あわてて自分の腹を見てみるが、穴は空いていなかった。

 俺はもしや《復活の加護》をまだ持っていたのか?


「ちょっと!何無視してんのよ」


 さっきから叫んでいるのは、サブマスターのセフィナだった。声もうるさいが、炎のような赤髪も同じくやかましい。 


「おはよう」


 寝起き……かは分からないが、朝特有の頭痛はしっかりとあったので、不機嫌な声になってしまった。


「おはようじゃないわよ……あと、ソレ、どうにかしてくれる?」


 セフィナの視線は、俺が腹のキズを見たとき、一緒に腹部かの下の方へ下りていた。

 とても冷たい視線はそのまま俺の顔に向けられる。


「なんで俺の家にいるんだ。どうやって入った」

「こわした」


 素朴な疑問をぶつけると、粗暴な返事が帰ってきた。

 ドアがあった方に目をやると、そこからは外の風景が見えた。


「なにか文句あるの?」


 ある。けどそれより気になることはいくらでもある。


「ありすぎて言い切れねえ、が、それは置いといてだ。俺は死なずに済んだのか?」 


 セフィナは「は?」という表情をした。


「ソレを私に主張した罪で一回殺すくらいなら、今すぐしてあげるけど?」


 「は?」という表情とジト目を同時に達成しながらセフィナが言う。

 ちなみに《勇者》同士では一部の者(記憶にある中ではこの女だけ)の間でふざけて殺すと言ったり実行したりすることがジョークとなっていた。


「ラタイアイはどうなったんだ」


 また「は?」という顔をされる。2回目。


「作戦に変わりはないわよ。王国軍の合流予定も問題ないみたいだし……アンタがそんなこと気にするなんてびっくり」


 俺の記憶では《勇者ギルド》も王国軍も、目の前で全滅したはずだ。


「まだ戦える戦力がいるのか?」


 セフィナの表情はどんどんと歪んでいく。理解できないものを見る目だった。


「まだも何も、こんな戦いは初めてでしょ」


 ようやく俺も気付いた。

 これは多分、話がかみ合ってないな。

 一旦落ち着いてよく考えてみるか。


「う゛!」


 落ち着こうとした矢先、首根っこをセフィアに掴まれた。そしてベッドから引きずり降ろされる。


「それより急ぐわよ、もう出発の時間じゃない」

「どこへだよ!」


 驚いて俺は大きな声を出した。構わず俺を家の外まで引っぱり出し、セフィアは言った。



「《ラタイアイ平原》に決まってるでしょうが!」


 俺は彼女の言葉を理解することをあきらめた。もともとぶっとんでる奴だ。

 だが通りを歩いていると、異常なのはセフィアだけでないことが分かった。

 街では普通に人々が歩いていたり、店をやったりしていたんだ。《勇者ギルド》が壊滅したのに、ここまで街は平常運転なのか。

 通りを抜けて街の出口であるゲートに来ると、さらに驚くべき光景が目に飛び込んできた。


「なんでこいつらみんな居るんだ……」




 ゲートの外には、つい最近全滅したはずのギルドメンバーたちが勢ぞろいしていたんだ。

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