第7話 《巫女》

 《ラキア王国》には、俺たち《勇者》が居たんだ。


 この国は世界で唯一 《勇者》がいて、日々、魔界の侵略を食い止め……


「ねえ、誰と喋ってるの?」

「いや、口には出してなかったんですが」


 《勇者ギルド》の正門の前で、誰に向けてかはわからない独白―――これまでの話は俺の脳内の独り言だった―――をしていたところに《巫女》が唐突に声をかけてきた。


「俺たち勇者がいたんだ(笑)だって」


 巫女は口元をニマニマとさせていた。声色もからかっているように高い。

 ちなみに、目元は暗い色のベールで被われているから、もともと見えるのは鼻から下だけだ。


「そうですね、巫女様。俺たちは日々 《ラキア王国》を魔物から守っております」


 わざとらしく〈気を付け〉の姿勢をとってみせる。


「守ってる―――ねえ。勇者さんは大変だ」

「なんで他人事なんですか。あなたの与えた能力ですよ」

「能力がなあにって?」

「あなたがヤバい加護をくれたせいで、勇者とかやってんすよ」


 この巫女は神と人間をつなぐ存在で、神からの《加護》を授けるのも彼女で。

 つまり《加護》とは巫女から与えられるものと考えてもよかった。


「まあ〈声がでかくなる能力〉とかじゃなくてよかったけど」

「きみは巫女の加護に文句があるんだね」


 ははん、と巫女は鼻を鳴らした。


「文句はないですけど……」


 いちおう相手は巫女様なので、少し慌ててごまかした。

 ただ、そんな気持ちも見透かしているようで、巫女はまたニマニマとしながら俺の顔を覗き込んできて、言った。


「ボクはきみの考えてること全部わかるから、ごまかさなくていいんだよ?」

「いやいや、ないですないですよ。」


 巫女様の前では思考さえ筒抜けになるので気が抜けない。が、俺の思考回路は半分違うことに使われていた。

 それは巫女様の口元についてで……。

 巫女様はベールで顔の上半分を覆っているので、顔のパーツで見えるのは鼻下と口だけ。それでいて、巫女様は感情豊かなのか表情豊かなのか、ころころと口の形が変わるんだ。これがとても魅力的で、俺はいつも見とれていた。


「……」ニマ


 巫女様の方を見ると、ニマりとしていた。当然、今の口元がエロいだの云う思考も筒抜けなんだよな。


 普段は見惚れるだけだったが、今みたいに深く考えてしまうと思考そのままを読まれてしまう。普段は抑えているんだが。ほんとに。


「アレスくんも男の子だねえ」


 肘で横腹を「うりうり」とされた。


「返す言葉もありません」

「ところでさ、今回は勝てそ?」


 急な問いかけに、少しびっくりした。これは数日後の〈魔界との決戦〉のことだろう。

「ギルドマスターは、勝てると断言していますが」

「ブレウスくんね。サブマスターはなんて?」

「セフィナも同意見だと。いつものことです」


《勇者ギルド》はギルドマスターとサブマスターによって運営されており、こういう事件が起これば方向性を考えたり、命令をする権限といったものは彼らによって行われていた。。


「ちなみに平 《勇者》はどう思ってるの?」


 《勇者》は特別な存在だったが、ギルドマスターには従わなければならない。つまり俺はこのギルドのなかでは〈ヒラ〉だった。


「難しいことは分かりませんね」

「あれだけ世界について考えてたのに?!」

「まあその、ブレウスが教えてくれるんで」


 巫女様は口をポカンと開けた。


「じゃあ勝つか負けるかも分からないんだ」




「どうだろうが、俺は暴れるだけですよ」


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