第5話 死んだ後に悪口を言われるアレスさん

 ―――今わかっているこの世界には、大陸が二つあった。


 片方の大陸(ルビ:南の砂時計)は既に〈モンスター〉を率いる魔界の軍隊に支配されていた。そして、彼らの住む大陸も現在進行形で侵略されている。


 小さな海峡でつながれた二つの大陸は、地図上ではまるで「砂時計」のような地形をしていたので、それぞれ「北の砂時計」「南の砂時計」と云われた。


 この《ラタイアイ平原》の決戦より前は、この二つの大陸をつなぐ小さな海峡を集中して防衛することで、「北の砂時計」への本格的な侵略は何とか防ぐことができていたのだが、同じ手は何度も通じない。


 魔界の軍隊は今回の侵攻ルートを海峡を通らないように変えてしまったのだ。


  「もっと良い作戦が考えられていれば……悔しいよ」


 「北の砂時計」の中心部に位置する彼らの王国と、海峡の間に《ラタイアイ平原》はあった。そして、今はそこで敗北したーーーつまり魔の手は確実に王国へ迫っている。


 これを完全に把握していた彼の表情はとても暗かった。


「死ぬまで、戦いましょ」


 セフィナも希望のない目で彼に言った。


 ―――王国へ《勇者》たちが向かう道中、彼らは状況についてさらに整理しようとした。


「僕達が死んでいた間はおそらく朝方から今の昼下がりにかけてだ。〈モンスター〉の進軍速度を考えると、半日で奴らはラキア王国につくだろう」


 ラキア王国というのが彼らの住む国の名前だった。


「じゃあ、あと少しだけ猶予がありそうね」


「アレスさえ居れば、こんな距離はすぐなのになあ」


 ギルドマスターはアレスの《加護》を思い出し、残念がった。セフィナもそれに同意するように、


「あいつのスキルが役に立つのなんて移動くらいだったわね」


 こう嘆いた。


「そもそもこいつが《勇者》なんておかしな話よ。わたしたちのスキルに比べたらほんとしょうもないのに」


 これまで暗い表情をしていた《勇者》たちは、くすくすと笑い始める。


「セフィナ、死人に鞭打つのは良くないよ……w」

「復活したら罰としてもっかい死んでもらいましょ」


 彼女はアレスを殺すイメージトレーニングをするように、腰のダガーを抜き、くるくると回した。




 彼らが、アレスがもう復活しないと気付くのは、もう少し先の話。


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