第4話 復活した《勇者》たち
ラタイアイ平原はひどい有様だった。〈魔界の怪物=モンスター〉に殺された兵士や《勇者ギルド》のギルドメンバーが草を血で赤く染めていた。
〈モンスター〉達は既に目的を達したのか、平原を通り過ぎてしまっていた。
そんな中で、転がる死体が数体、光をまとい始めた。
《復活の加護》の発動だ。
「いたたたた!」
もはや静寂に包まれた草原で初めて声を上げたのは、《勇者ギルド》のサブマスターであるセフィアだった。
彼女の折れた腕や大きくえぐれた傷が、光とともに正常な身体に戻ってゆく。
大きな傷が治るごとに「痛い!」と彼女は高い声を上げた。
「セフィア、静かに」
次に声を出した男は、ギルドマスターであるブレウス。
「……!ああ、良かった。復活できたのねギルドマスター」
セフィナはブレウスの方を見て、まるで復活時の体の痛みを忘れたように、安堵しながら彼女は言った。
「いてて、相変わらずこれはキツいなあ」
静かに―――と言ったブレウスも、同じく表情は厳しかった。そして復活の痛みは彼にもあるようで、しばらくは二人とも苦悶を続けていた。
「……とりあえず、平気になったら状況を確認しよう」
ブレウスはギルドマスターらしく、復活したばかりというのに状況の確認を始めた。
また、時を同じくして6人ほどの《勇者》が復活を果たし、それぞれブレウスの元へやってきては、指示を受け、現状を把握しようと平原に散らばっていった。
そしてすぐにセフィナが〈異常〉を見つけた。
「あらアレス、まだ寝てるの」
仲間の《勇者》であるアレスの死体だった。
これを見つけたセフィナは、彼の死体を蹴った。
「みんなもう復活してるのに、気楽なもんね」
いつになったら復活するのよ、と零しながら。彼女はアレスの身体を見て、心臓があるだろうから復活すると考えたのだろう。
しかし数度蹴ってきても彼は復活してこないので、この死体をどうするべきかと、セフィナはしばらく悩んだ。
すると、立ち止まっている彼女を気にして、ギルドマスターが歩み寄った。
「何してるんだい」
「アレスがまだ死んでるわ、どれだけのんきなのかしら。こいつも他のモブどもと変わらないわ」
彼女の呆れた声と同じように、ブレウスも呆れたような視線をそれに向け、ため息をついた。
「仕方ないよ、セフィナ。とりあえずアレスを担いで」
そこまで悪態をついていたセフィナだったが、ブレウスの命令には「はい」と、二つ返事でアレスの体を担ぎ上げた。
「時は一刻を争う。速やかに王国に戻らなければいけない」
彼は続ける。
「僕たちは敗北したらしい。そして、死んでいる〈モンスター〉の数は多くない。つまりあいつらはこのまま王国に向けて進んでいるはずだよ」
「そうね、急ぎましょう。こっち側の大陸(ルビ:北の砂時計)まで奪われるわけにはいかないわ」
彼女は頷き、答えた。
―――今わかっているこの世界には、大陸が二つあった。
片方の大陸(ルビ:南の砂時計)は既に〈モンスター〉を率いる魔界の軍隊に支配されていた。そして、彼らの住む大陸も現在進行形で侵略されている。
小さな海峡でつながれた二つの大陸は、地図上ではまるで「砂時計」のような地形をしていたので、それぞれ「北の砂時計」「南の砂時計」と云われた。
この《ラタイアイ平原》の決戦より前は、この二つの大陸をつなぐ小さな海峡を集中して防衛することで、「北の砂時計」への本格的な侵略は何とか防ぐことができていたのだが、同じ手は何度も通じない。
魔界の軍隊は今回の侵攻ルートを海峡を通らないように変えてしまったのだ。
「もっと良い作戦が考えられていれば……悔しいよ」
「北の砂時計」の中心部に位置する彼らの王国と、海峡の間に《ラタイアイ平原》はあった。そして、今はそこで敗北したーーーつまり魔の手は確実に王国へ迫っている。
これを完全に把握していた彼の表情はとても暗かった。
「死ぬまで、戦いましょ」
セフィナも希望のない目で彼に言った。
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