第3話 死んだ二人

「ところで、アレスさんよ」


 死にかけの兵士は相変わらず話し続けている。いい加減逝ったらどうだ。


「《勇者》ってのは、復活できるって聞いたぜ。いいよな、《加護》の能力に加えてそんな特別な力もあるなんて」


 ああ、そうだ。《勇者》は神の加護により心臓が残っている限り蘇生することができる。


「俺なんか、ゴホッ……〈聞こえやすい声が出せる〉能力だけなんだぞ?」


 不憫すぎて思わずニヤりとしてしまう。戦いになんの役にも立たねえ。

 しかし、考えてみれば彼もボロボロの状態だったのにここまで会話を続けられたのは、少し違和感があったところだ。

 皮肉ながら、この会話は彼の〈聞こえやすい声が出せる〉能力のお陰で成り立ったのだろう。


 「結局人生で役に立ったことなんて一度もなかったよ」


 だから、彼の《加護》がなければこの情けない愚痴は俺に伝えることすら叶わなかっただろう。笑いがこみあげてくるが、残念ながら声を出しては笑えない。

 ただここでは役立ってるぞと伝えてやりたかった。

 だが、だんだんこいつの声は小さくなっていた。そろそろ体力の限界なんだろう。


「じゃあ、あんたは復活して世界を救ってくれ。俺はそろそろ逝くモブ」 


 この言葉を残してすぐ、こいつの体は力がすべて抜けたように地に崩れた。

 よし、じゃあ俺たち《勇者》は復活して、弔い合戦を始めようか。


 ―—とはいかないんだ実は。


 よく考えてみてほしいんだが、そもそも《勇者ギルド》は総力を挙げてこの決戦に臨んで完敗してるわけだ。つまり俺が復活しても、他のやつらが復活しても多分勝てっこない。

 あと、生き返るには〈心臓〉が残っている必要がある。今俺の腹を貫通した傷のように、魔界の〈怪物〉の攻撃を受けてしまえば、心臓だって残る保証はないので、今倒れている《勇者》も何人が復活できる状態かもわからないし、また次に復活してやられた時にも心臓を失ってしまうかもしれない。


 だから俺たちが例え不屈の意思をもって戦おうとしても、それは勝利には繋がらないんだ。


 ……しかもこれは、あくまで復活したらの話。


 今日、俺は復活できない。心臓はあるが復活できないんだ。


 理由は一つだけ。


 本当は、俺はもう《勇者》じゃなかったからだ。

 数日前に《勇者ギルド》を追放されて、復活の《加護》も剥奪されたばかり。

 だから、このまま死ぬほかなかった。

 話しかけてきてた男も死んで、意識もほとんど飛びかけだった。


 ―—目の前が真っ暗になると同時に、数秒後、俺も息絶えた。

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