第4話

『さあ着いたわ!ここが職業適性を見てもらえるところよ。ショーン、心の準備は良い?』

『うん。僕は大丈夫だよ。パパみたいな魔導士になるんだ!』

『トムと同じより、ママと同じ魔拳闘士の方が魔法も格闘も出来て便利よ?』

『パパみたいにカッコいい魔法を使って立派な冒険者になりたいんだ!それにスキームみたいに身体を鍛えなきゃならないなら、僕には向いてないと思うんだ…』


ここは町の中にある教会。聖神教国から世界各国に支部を持ち、そこから派遣される形でこの町にも教会を作り、神により与えられる職業適性や、その職業にあったスキルがスムーズに得られるよう、世界各国に協力し、布教して行っている。今世界で一番布教している宗教である。

ここの聖神教の司祭さんに適性を鑑定してもらえる。子供は7才になると教会の司祭に適性鑑定を受け、それに見合ったスキルを身につけていくのが通例のようだ。

俺の兄貴は魔法に興味が強く、親父の後を追っかけて何度も怒られている。その為か、親父に何度か魔法を見せてもらい、より思いを強くしていた。

俺は兄貴にどっちもこなせるような職業に適性があればいいと思う。

いざって時は身体一つで身を守らなきゃならない。魔導士は遠距離特化なだけあり、ありとあらゆる魔法が覚えられるが、接近戦に持ち込まれたら、対処が難しい。

それを踏まえて、俺のトレーニングに何度か付き合わせたのだが、以前に増して魔導士を目指すようになってしまった…

相当筋肉痛に苦しめられていたからな…

母さんすまない。


『兄貴はあの筋肉痛の素晴らしさが分からないんだな。俺は悲しいよ…』

『スキーム。あれはママから見てもおかしいと思うわ。自分の身体を触りながら微笑んでいる姿を見た時は、ママもパパも引いたわ。ショーンが勘違いしているじゃない。当分はトレーニング禁止よ!』

『えっ!そんなーーー…。』

『メイは、すちーむにちゃの、とえーにぐ好き!』

『こんなところに天使が!!』

『それでもダメよ。ショーンに勘違いさせた罰よ。』

『オーマイガー…orz』


教会の外で、兄貴の順番を待ちをした。

順番が来ると、慣れた様子で教会内に案内され、家族はベンチに座り、兄貴は職業適性を司祭に見てもらっていた。あの板のようなものに触れるように指示を出されている。兄貴が板に触れると司祭の目が少し光ったような気がする。


『おおっ!これは珍しい。ショーン君の適性は大魔導士のようです。この職業は遠距離特化型ですね。これは活躍が大変期待できそうですね』

『やったー!僕頑張るよ。』


どうやら、兄貴は珍しい職業適性があったようだ。魔導士ではなく大魔導士か。魔導士以上に魔法や、魔術に関するスキルに適性が高いようだ。兄貴や両親からはユニークスキルの話は、聞いたことがないからな。どのように鍛えて行くのか気になるところだ。


『どこの冒険者学校に通うのかは、お決まりですかな?決まっていなければ、王都の冒険者学校への推薦を出そう。』

『我々のような平民にそのような図らいを頂けるなんて…。有難いお話ですが、宜しいのでしょうか?』

『未来ある有能な子供に、より良い教育の場を勧めるのは当然のことにございます。学校へ通うようになるのは12才からですので、あと5年間、両親の元でスキルを身につけてもらい、ステータスの充実も図るよう努力して下さいね?私はこの国の聖教会ラムダです。推薦状は4年後の今の時期までの成長を見て、お渡しします。応援していますね。』

『ありがとうございます。息子共々努力して参ります。宜しくお願いします。』

『ええ、楽しみにお待ちしてます。』


兄貴の適性で、ちょっとしたイベントが発生したが、無事話も済み帰宅することとなった。


ショーン達家族が退室した後、ラムダ司祭に話かける。神官の姿があった。


『司祭様!宜しいんですか?こんな平民の子供にそのような…』

『お前はまたそのようなことを、王族、貴族、平民であろうと、神の前では皆が平等なのです。そのような考えを持つのはやめなさい。才のあるものが活躍すれば、この国も、また世界も救われるのですから…』

『くっ、でもですね。あの様な何処の馬の骨とも分からん様な子供が、王都の冒険者学校で王族や、貴族を不快な思いにさせるだけなのではと思う次第でして…。ましてやあの様な輩を王都に推薦したのが聖教会司祭様だと分かり、粗相があったら我々の沽券に関わりますぞ。』

『この馬鹿者め!冒険者学校は政治の場ではない。あそこは未来の冒険者が、学び、巣立ち、また既得権益が及ばないようにすることで、王族、貴族、平民に平等な教育が施されるのじゃ!そんなことは気にするものでもない。それでも王族や貴族が文句を言うので有れば、この国から聖教会を退くことになろう。この国でも国教となっている。聖教会が離れれば適性職業の査定は難しくなるであろうし、民の指示が得られなくなるのは、この国じゃからな。』



そんな話がなされているとは知らず、帰宅したスキーム達家族は、ショーンの適性が栄誉あるものとわかり、お祝いをした。

また、これを機に父からの教えも厳しくなり、ショーンは結局涙を流すことになるのであった。




その日から2年、俺も教会で職業適性を見てもらう日がやってきた!


『スキーム!スキーム!ご飯できたわよ。今日は適性受けに行く日なのに、いつまで寝てるのかしら。メイ、スキーム起こしてきて!』

『ママ、スキームお兄ちゃんはお外で訓練してたよ。』

『またやってるのね。あの子は適性受けに行かなくても、勝手にスキルを身につけているから、必要ないんじゃないかと思ってしまうわね…。我が子ながら理解に苦しむわ。それじゃあご飯できたわよって伝えてきてくれる?』

『うん。言ってくるね。』


俺はここ2年で覚えた。魔法スキルと、身体強化スキルで朝から訓練していた。

魔法スキルは、兄貴と親父の訓練を気配遮断で、観察して自己流で訓練を行い身につけた!

魔法は生活、火、風、土、水、氷、雷、空間、時、光、闇11種と種類は多く、また自由度も高い。イメージ力により姿形などの変化も想いのままだ。

後はスキルレベルで消費魔力を徐々に抑えられるようだ。ステさん曰くそんな風にやってるのは俺が初めて出そうだ

これはラノベ好きな転生者からしたら、魔法に応用をきかそうとするのは当然と言えるだろう。

身体強化スキルは魔力操作・循環スキルを身体の周りに纏うように循環・操作できるか試した。苦労はしたができたので、今度は内側と外側を両方で、循環・操作したら身体の動きが飛躍的に良くなった。と思っていたらステさんからスキルが身についたと報告を受けたんだ。

後は訓練あるのみで、のめり込むように努力したさ。おかげで身体強化はなかなかのものだと思う。


『スキームお兄ちゃん!ご飯できたってママが言ってるよ!』

『うん。すぐ向かうよ!ありがとう』

『うん。先戻ってるよー』


てな訳で、我が家の適性を見に行く日は、オークのカツ丼だ。母さんの勝負飯はこのカツ丼で、何か事あるごとにカツ丼だ。

前世でも試験の時期には験担ぎに、いろいろな企業が多種多様な商品を出していたのを思い出す。

俺はチョコのキットカ○トが割と好きだったな。



閑話休題



そして職業適性を見てもらいに聖教会にやってきた。また、ラムダ司祭が見てくれるのだろう。


『それではどうぞ次の方。』

『はい。トムとメアリーの次男スキームです。宜しくお願いします。』

『承りました。それでは家族の方と一緒に中はどうぞ』


2年前に一回だけ見たが、以前と儀式的なものは変わらず、家族は近くのベンチに案内され、俺は司祭の前に立たされて、あの板のようなものに触らされる。目の前で見ると、かなり凝った作りの石板だと言うのがわかった。

鑑定スキルがないのが痛いところだな。

そして俺は石板に手を触れた。

あたりは光に包まれた。



『うん?ここはどこだ?今教会の石板に触ったとこだったよな?』

『そうね。で、貴方はここに連れてこられたってわけよ。』

『え?誰?』

『貴方の相手をさせられてる。ステータスといえばわかるかしら?』

『す、す、ステさん?こんな美少女だったの?』


今俺はあたり一面真っ白な空間に来ていた。

そして俺の横にはとてつもない美少女もといステさん?がいる。

何がどうなっているんだ。

職業適性受けに来ただけだよね。

どう言う事?


『どう言うことも何も、あんたが変な事ばっかりするから、この世界の神に興味を持たれて、その神の領域に招待されたのよ。』

『心を読むのやめてもらえます?ていうか心を読めたのね。』

『あんた普段から私と会話する時、喋らなくても話してたじゃないの?今更よね…。』

『ハッハッハッ!なかなか面白い子だね。』


これはまたとんでもないイケメンが出てきたな!神の領域ってことはやはり神か。神様ってのはやはり全てが整っているんだな。


『これは創造神様。』

『良いよ。叡智神。こんにちは、スキーム君。大分この世界を楽しんでくれているみたいで何よりだよ。』

『え?創造神?神の一番偉いであろう人出てきちゃったよ!やべー!異世界やべー!ウッヒョー!てかステさん神だったんだ。そりゃ色々詳しいわけだ。』

『あぁー。また変なテンションになってるわね…。すみません。創造神様。彼はいつもこんなで、かなり特殊な感じなのです。私をもってしても理解が及ばない部分が…。』

『良いよ。この子にはこっちに来てもらって、世界の停滞した時間を取り戻してもらう役割もあるのだからさ。ところでスキーム君。私は創造神のキビトという。今後何かの折には君に頼み事があるかもしれない。その際は協力してもらっても良いかな?』

『え?頼み事ですか?まぁこんな素敵でハッピーな世界に転生させてもらえたんだし、俺の出来ることなら手伝います。

あっでも、基本的に行動を制限するようなのは勘弁してほしいです。

この世界の頂目指して冒険王になりたいんで!』

『冒険王?君は本当面白いね。よく分からないけど、頑張ってくれ!

とりあえず君にお願いしたいことと、謝らなきゃならないことがある。

まずお願いしたいこと。これは少し聴こえていたかもしれないけど、この世界のシステム、大地、種族、モンスターなどあらゆるものを創造したのは良いが、この世界は停滞してしまっていてね。このままこの世界が停滞し続けると、この世界は崩壊してしまうんだ。だからこの世界に君という刺激を与えて欲しい。具体的にはレベルシステムの最大値10レベルを目指して欲しい。どうかな?』

『それは願ってもない。むしろ僕の今の目標は前人未到の10レベルに到達することを考えています。でもでも、僕の10レベルはただの10レベルじゃないですよ!ステータスを各レベルでカンストさせての10レベルですからね!時間はかかると思いますが、任せて下さい。しかし、お願いということは何か報酬があるんですか?』

『そうだね。それなら達成の暁にはこの世界の神の一柱となれるようにするのはどうかな?』

『それは結構です。神になっても管理とかめんどくさそうだし、自由気ままにはできないでしょうし。』

『なかなか鋭いね…。わかったその時までには何か考えておくよ。ほかに君の希望があれば可能な限り叶えるよ。それで良いかな?』

『はい。それでお願いします。それでもう一つは?』

『ああそうだね。隠してもしょうがないからとりあえずごめんね。君の職業適性なんだけど…。実は該当するものがないんだ。だからこのタイミングで呼ばせてもらった。適当に見繕うと君はそれを極めようと、視野を狭くするんじゃないかと懸念しての判断だが、すまないね。何か君の好きな職業を適性とするから好きなものを言ってくれ。』

『ああ、そういうことでしたか。確かにキビト様のおっしゃる通り極めようとしたかもしれないですね。でもそれならなしでいいです。理由は分かったんであろうがなかろうが、色々なスキルが覚えられるのは変わらないんですよね?それともなしだと何か制限があるんですか?』

『君は本当に面白い。やはり君を選んで正解だったか…。なしでも制限はない。しかし、ないことにより周りの目が厳しくなるのは確かだ。初めはそのようなことはなかったのだが、いつからか職業適性が全て、その者の器を測るものだと世界の考えが根付いてしまった。これはこの状態になるまで何もなさなかったこの世界の創造者たる僕の責任でもある。申し訳ない。』

『謝らないでください。俺はこの世界に来れて、とても幸せに思っているんです。なしでもなんとかなるなら、僕は良いです。でも家族への負担は…

なんとかなるか…。

厚手かましいのは承知で、僕からのお願いがあります。この世界はスキルの存在は明らかなようですが、スキル取得条件が明確ではないのでなんとかなりませんか?』

『そうか。これは私から世界への干渉には制限を設けている所為であるのだが…、

承知した。では聖教会と各大陸の有力者に神託を届けよう。しかし、届けたところで情報を秘匿する可能性は拭えんか…。

ではスキーム君に関しては叡智神より聞くが良い。叡智神は君といつも交信出来る状態を保っているようだしな。ある程度の情報の開示を許そう。叡智神頼むぞ。』

『はい。御心のままに…』

『もう時間のようだな…。また会おう…』

『あっ…』


意識が遠退く感覚とともに、現実世界へと引き戻されていった。

そして目の前には驚愕の顔をした司祭さんの顔があった。


『これは…。君はスキーム君と言ったね。落ち着いて聞いて欲しい。君の職業適性はerrorと出ている。これは数百年前の話で定かではないが、以前もこう言ったことは良くあったようだ。しかし、適性がないとなるとスキルの取得も絶望的と言わざるおえない…。今後のことはご家族とよく話し合う必要がある。頑張って生きるんだよ』

『ああ…(まぁ知らなきゃそういう反応になるよね)。僕は全然平気です。自分のやりたいようにしていきます。ありがとうございました。』


やはりこういう反応になるんだな。まぁ家族には心配かけるかもしれないが、俺が明るく振る舞ってればなんとかなるだろう。


『し、し、司祭様何かの間違いではないでしょうか?うちの息子は独学ではありますが、魔法のスキルを持っていますし、一般人では考えられない位の身体能力もあるんです。そんな子が無職なんて…。この子は今後どうなるのですか…。』

『メアリー落ち着け、司祭様も困ってらっしゃる。』

『でもトム、スキームが…。今後スキームはどうなるかわからないわけではないでしょ?こんなことが知れたらショーンだって王都の学校に行けるかどうか…。メイだって、私たち家族だって町のみんなから…。』

『メアリー落ち着くんだ。スキームもあるんだぞ。あいつはあっけらかんとしているが…。

司祭様もう一度見ていただけないですか?』

『か、構いませんよ。もう一度やりましょう。』

『母さん、親父いいんだ。司祭様すみません。僕は大丈夫です。俺は無職でいいから、別に凹んだりなんかしてないし、今後のことを考えないといけないし、後ろもつかえてるから帰ろう。』


俺はこの時何もわかっていなかった。世界で無職がどんな扱いを受けるのかを、そしてその環境は俺だけのことではない。ということを楽観視しすぎていたんだ…。

そして賽は投げられた。

家に帰り、取り乱してる両親とまず話をした。


『スキーム、落ち着いて話をしよう。まず今回お前は職業適性がなかった。これはむ、む、無職ということだ。確かに職業は適性のない職業でもつくことは出来る。しかしむ、無職は別だ。どこにいっても何をしても職につくことは出来ない。お前がなりたい冒険者も無職の人間をギルドが雇うことはないだろう。農夫をやっているようなところで有れば、適性がなくともなんとかなるかも知れないが、農夫は農夫でそれ用のスキルもある。このスキルも無職では難しいんだ…。わかるか?』

『トムも落ち着いて、もっと言い方があるでしょ。スキームも現実を受け入れるには、まだ早いわ。まだ7才なのよ。7才なの…。どうしてこんなことに…。』

『親父その話は本当?ど、どういうこと?そんな話は知らないよ。なんとかならないのか?(キビト様が言っていたことと大分違うぞ…どういうことだ)』

【創造神様が言っていたでしょ。無職は世間的にも辛いと、だから好きな職業を選べと、それでもあなたはいらないと言ったのよ?この結果はあなたが招いた結果よ。それでもあなたはなんとかなると言っていたから、何か打開策を持っていたんじゃないの?】

『残念ながら、僕にもどうしたらいいのか分からない。今後のことを考えるので精一杯だよ。ごめんなスキーム。酷いことを言うようだけど、これが現実なんだ。ショーンも王都の件は諦めよう。』

『親父なんで?兄貴は関係ないだろ。俺の事は俺がこれからなんとかする。兄貴は王都の冒険者学校への推薦もあるんだから、平気なはずだ。そんな事を言うのはやめてくれ!(なんで兄貴の話が出て来るんだよ。これは俺の話のはずだ。なんなんだいったい…)』

【ハァー、呆れた。本当に何にも考えてなかったのね。あんたね、あんたが無職になったんだから、それを産んだ両親も、その関わりのある兄弟もあんたのその無職で、外聞が悪くなるのよ。少しは考えればわかるでしょ?ハァー…。馬鹿ね】

『そう言うわけにもいかないんだ。世間からの目は許しちゃくれない。王都にショーンが行けたとしても、ショーンの扱いはより厳しいものになる。だからこれは良いんだ。あいつは多少肩身の狭い思いをすることになるだろうが、この町の学校に通えば良い。それに職業適性は大魔導士だ。大成することも可能なはずさ。それよりもスキームお前だ。俺やメアリーが生きている間は良い。しかしそのあとはどうする。職に就けなければ金も稼げない。飯を食うこともままならない…。

ショーンかメイに養ってもらうしかないか…。』

『トムやめてあげて、スキームが悪いんじゃない。私がちゃんと職業適性を持って産んであげられなかった。私が悪いの…。ごめんなさいスキーム…。ごめんね…。』

『ちょ、ちょっと待ってくれ。そんなはずじゃなかったんだ。そんなはずじゃ…。』

『メアリーお前のせいなんかじゃない。俺のせいだ。俺が非才なばかりにこんなことに…。』

『スキームどう言うことだ。パパもママも困ってるじゃないか!俺も王都には行けないし、俺もメイもお前みたいな無職の面倒なんてみたくないぞ!ふざけんなよ。この疫病神が!出てけ!』

『ショーン!!』


バシン!!

親父がショーンを平手打ちした。


『スキームを責めるな!スキームが望んで無職になったんじゃないんだ。兄弟のお前が支えないでどうする!』

『ええーん。ええーん。』

『メイ、泣かないで、ママも辛いの。ショーンごめんね。王都に行かせてあげられないで…。本当にごめんなさい。』

『ご、ごめん。親父、母さん、兄貴、メイ…。俺のせいだ。俺が…。』

『だったらなんとかしてくれよ!お前が無職で何が出来るわけでもないだろうがよ!ふざけんな!み、み、みんなお前のせいだよ…。どうしてだよ…。これからどうするんだよ…。』

『兄貴…。ごめん…』


親父に現実を突きつけられ、母さんに泣いて謝られて、兄貴に責められ、メイに泣かれて、俺は取り返しのつかないことをしてしまった事を自覚した。

今からならまだ創造神様にお願いして、この無職をなんとかしてもらえるかも知れないと思い、ステさんに頼み込む。


【無理よ。そもそも神と接触することすら不可能なの!私は神の末席に加わっていても、創造神様にお会いするのだって数百年ぶりのことだったのよ。そんな簡単に会えると思わないで。私もあんたと交信しているのは気まぐれなのよ?一応スキルを取得するためには情報を開示する予定だけど、それ以外は私も干渉できないんだから、自分でなんとかしなさい。】

『そ…そんな…。』


最後の頼みの綱も失い、茫然自失となった。


『スキーム、今日のところはもう休みなさい。疲れただろう。メアリーたちのことは僕に任せて、部屋に戻って寝なさい。』


ガタッ


親父に促され、返事もできず、僕はそのあと自室に戻り、現実逃避する様に意識を手放した。


翌朝から今までの生活からは想像もつかないくらい悪化した。家には石やゴミなどが投げつけられ、町の人間からは、無職が感染するから出で行けと蔑まれる日々が続いた。そして食べ物も売ってもらえる事も出来なくなり、俺たちはこの国をでで行くこととなった。

俺たちがいた町はユーシア大陸にあるアカリメ王国の小さな町であったが、母さんも親父も国内では名の通った冒険者であったため、国内には知れ渡っており、アカリメ王国に居場所は無くなってしまったのだ。

最近じゃ、家族から俺を見る目が可哀想という憐憫の眼差しから、増悪に似た眼差しへと変わり、ほとんど会話もなく過ごした。そしてアカリメ王国の国境を超えたところで俺は決意を伝えた。


『親父、母さん、兄貴、メイ。今日まで本当にすまなかった。俺のせいでこんな事になってしまって申し訳なく思ってる。でもここから先はもう安心して欲しい。俺は今日から一人で生きるよ。今から俺は親父と母さんの子じゃないし、兄貴とメイの兄弟じゃない。だから四人で新しい家族として再出発してくれ。身勝手な事を言ってる自覚はある。でもこれが最善だと思うんだ。親父、母さん、今日まで育ててくれてありがとう。

兄貴、迷惑かけて本当にごめん。

メイ元気いっぱいの笑顔をありがとう。

みんなからもう嫌われてしまっているのはわかってる。こんなこといって迷惑だろうことも…。

でもケジメとして言わせてもらった。

ありがとう。お元気で。』

『スキーム何を言ってるんだ。お前は一人でなんか生きてけやしない。一人で行っても野垂れ死ぬのがオチだ。やめろ。確かに今日までお前を少なからず憎いと思ってしまった事はあった。でもお前は俺とメアリーの子供で、ショーンとメイの兄弟なんだ。俺たちは家族なんだよ。お前の事を見捨てるなんてことは出来ないし、するつもりもない。

不快な思いをさせて悪かった。だから考え直せ。俺たちはそんなことを望んじゃいない。』

『そうよ。スキーム、そんな悲しいことを言わないで。私たちは5人で家族なの。私とトムには3人の子供がいるの。それは他の誰かでも誰一人として欠けて良いものじゃないの。安心して私たちと一緒に来なさい。私やトムがちゃんとあなたを守るわ。そうでしょ?みんな?』

『そうだよ。はっきり言ってかなり恨んだし、お前の事を今でも許せない。でもお前は俺の弟だ。俺はお前の兄貴だ。何も変わらないし、これからもずっと一緒だ。酷いこともあの時は言ったけど、今はそんなふうには思っちゃいないよ。それにお前は無職でもスキルが使えるしな。役立たずってわけでもない。気にせず一緒に暮らしていこう。』

『お兄ちゃん。メイはお兄ちゃんのこと好きだよ。でもそんな悲しい事を言うお兄ちゃんは嫌い!一緒に行こ。』


俺はまたしても、勘違いしていたようだ。あんな事をしでかしたのに、家族がそれでも俺を家族だと思ってくれている事に気付いていなかった。本当に情けない。これでも前世と合わせて42才。この中で一番年取ってるのは俺なのに、こんな事にも気づかないなんてな。

本当良い家族に恵まれたんだな。異世界転生してこれまで、自分は努力したつもりになって過信して、とんでもない迷惑をかけて、家族を路頭に迷わせて、挙げ句の果てに自己満足とは…

情けない。

でもこれで腹を括れた。

思い残すことはない。

ありがとうみんな。


『ありがとう。本当にごめんなさい。俺は本当に恵まれてる。こんな暖かい家族に包まれて、こんなに感謝した日はないよ。

やっぱり俺は行くよ。みんなにこれ以上迷惑かけられない。

いつか俺が有名になって、みんなを迎え入れられる位立派になったら、迎えに来るから…。

その時までさようなら。』


そう言い残し、俺は姿を消した。






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