第1話 よし、決めた!
「私、決めたよ。ここ、出てく!」
「――ダメです」
私は目の前の女性に対して、宣言す―――え?
黒縁メガネの銀髪の女性は、少女の言葉に対して間髪入れずに否定する。
「ちょ、ちょっと待ってよ! 少しは聞いてよ!」
「嫌です。私は忙しいのでこれで」
「ま、待ってよ! リエラ!」
リエラはOLのようなタイトなスーツに身を包んだ女性だ。背は高く170センチほどあるだろうか。わたしは彼女の手を掴んで見上げる。
リエラは振り向き冷たい目でこちらを見つめて、口を開いた。
「出てく、ってこれ何度目ですか? マオちゃん。私はそんなに暇じゃないよ?」
「あ。いや。今回は本気で……」
まるで蛇に睨まれた蛙のように、身をすくめながら答え――
「――マオちゃん! そこに座りなさい!」
「は、はい!」
私の言葉は、リエラにさえぎられてしまう。
昔からの癖で素直に返事をし、席に着いた。リエラは私の教育係で、幼いころから知っている存在だ。姉がいるならこんな人が良いと妄想していた時期もあったっけ。
「今日はさすがに言わせてもらいます」
「はは、そんなにかしこまって、なにを?」
しまった。リエラの説教モードが始まった。
「マオちゃん。貴女はいつも思い出したように出ていく出ていくーって言うよね。けれど、家出するほどの度胸はない。出ていくだけの力をつけたいなら、鍛えなさいって事で私が伝えた訓練メニューも、結局全然行わない。才能はあるのは間違いないけど、自分のヒーローの力一つまともに扱いきれていない。そもそも礼儀も学ばないし、勉強もしない。世間知らずなのは、外に出たことがないから仕方ないにしても、努力ぐらいしてもらわないと教育係の私は困るよ。貴女のお父さんは、貴方が戦いの術を知らないなら、知らないで良いって思っているみたいだけど、いつまでも守り続けるつもりなのかな? そういえばマオちゃんはお父さんに反抗的だけど、その辺、無頓着だよね。力をつけない事には、いつまでもお父さんに守られている状況は変わらないよ? あと今回はまた、どうして出ていきたいと思ったの? 反抗? それともかまってちゃん? かまってちゃんなら、相手するよ? というより相手しなかったことなかったでしょ? 近場なら遊びに出かけてもいいことになってるし、何が不満なのかな? 他には――」
「――ちょっと、まってよぉ! 言いすぎだからぁ!」
私は、リエラの言葉をさえぎる。最初はちゃんと聞こうと思ったんだよ。でも、さすがに言いすぎだよ。私の瞳から涙が零れ落ちる。耐えきれなかった。
「……他にも、言いたいことはありますが、この辺にしときましょう」
「……うぅ」
わたしの家出心は、またも挫けてしまった。 出ていきたい気持ちはあるが、修行は頑張りたくないし、いまさら、お父さんと話をするのも、よくわからない。
意気消沈した私は、自室に戻ろうとリエラに背を向ける。
その時だった。
「マオちゃん。そろそろ、ちゃんとお父さんと話してみよっか」
「――え?」
わたしの物語が始まる気がした。
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