第2話 よし、出ていくと良い
――最後に父と会話をしたのは、いつの事だろうか?
思い出そうとしても、思い出せない。もしかしたら、“あの日”からちゃんと話したことがないかもしれない。私が避け始めたのか、父が避け始めたのかわからないが、私たち親子は、気付いたら会話をしなくなっていた。
話しづらくなってから、時がたてばたつほど、話す機会が無くなったんだ。
私がリエラと会話をしたあの日から、1週間が経っていた。
父と会話する予定を組むだけで、これだけの日が経ってしまうものだろうか……
日にちが経てばたつほど、また私の家出は失敗に終わるのだろうか。と不安が募ってしまう。
そんな風に考えているその時だった。
「マオちゃん、お父さんとの面談予定が組めたよ」
「……なんか、就職の面接みたいな言い草だね」
「バイトもしたことないでしょ」
「……」
――ないけど! 私はヒーローだし、ヒーローでバイトしたことある人なんていないよ! なんて言葉はさすがに口からは出てこない。
それにしても、父と話をするだけで、こんなに時間がかかるものなのか。
――それもそっか。
私の父は、この世界で最強のヒーローと名高い、世界の英雄だ。
世界最大のヒーロー組織『ジャスティス』
この世界を支配し、正義を執行する最高機関だ。元々この世界にあった人間の国をすべて統治下にし、初代『世界統治者』がヒーローの力、別名『神力』でこの世界の言語を統一した。その神と見まごうほどの軌跡を起こした世界統治者。その3代目が、私の父だ。
三代目に就いた父がどのように凄いのかなんて、正直言って、娘の私は知らない。
「ま、とりあえず。これからすぐだから準備して」
「これから?」
問答無用。準備する間もなく、私は父の元に連れられた。
――――――――――――――――――――
「よし、出ていくと良い」
目尻に少し皺が目立ち始めた、鋭い目を優し気に細めた銀髪の男が言う。オールバックに撫でつけた銀髪は、年齢を重ねた男の色気をまとう。
「――え?」
私は、父の言葉を聞きなおす。リエラが何かを話したかと思ったら、食い気味で父は言った。ちょっと、何をいってるの? 出ていくとは私が言ったし、出ていきたいけど、え?
混乱している私を無視して、父とリエラが会話を始める。
「ハオ様、どうしてその様な心変わりを?」
「はは、心変わりとは失敬な。私も私なりに考えるところもあるんだよ」
「親ばかで、子供を守る気持ちが強すぎて、結果、子供に悪影響なハオ様が?」
「――リエラ、君は相変わらずだな」
頬をかきながら、困ったように笑うハオ。
――いや、ちょっと待て。
「待ってよ。出ていくと良い。ってどういう事?」
確かに、私が出ていきたいと伝えた。リエラも驚いている様子だし、何より今まで私が外の世界に出ていくことを制限していたのは、この父だ。
「そうだな。確かに君は驚くかもしれない。けれど、リエラから話を聞いたときにいろいろと考えたのだよ。そろそろ考えなくてはならない。と」
父は、私の目を見つめて言う。
「マオ、この世界の事をどう思う? 最高の世界か?」
「……」
私は考える。正直な話、分からない。何を意図した質問なんだろうか? なんて答えよう。クソみたいな世界だ。とでもいう? いや、素直に言うか。
「――わからない。最高には感じない」
「……そうか。私も最高の世界とは感じない」
父は悲しそうに笑う。なんだよ。その悲し気な顔はさ。小さいころの父の顔って、こんな弱そうだったっけ。
その姿を見つめ、私は言う。
「何をもって、最高というのか分からないけど、現実に最高なんてないでしょ。最良をどう目指すのかじゃないの?もし、最高なら、これ以上はない。って話だしね」
「やはり、君は聡い子だな」
ハオはその続きを何か言いたげだったが、言葉にはしなかった。
そこでリエラが口を開く。
「ハオ様。説明してあげてください」
「せっかちだな。君は」
私は父の言葉の続きを待つ。父は言いたい事をそのままに伝えることに躊躇しているようで、どのように伝えれば、私を傷つけないで話せるのか、考えているように見えた。――やっぱり、優しいね、お父さん。
「いいよ。出ていく」
「……そうか。……うん。ありがとう。マオ」
久しぶりに親子の会話が出来た気がした。
「行ってほしい場所があるんだ」
家出。ってわけにはいかなかったね。
世間知らずのヒーローの小娘は、世界に出る。
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