五十三話 ひとつ屋根の下

 俺とルクシアはホームへと帰ってきていた。

 どこか寄っても良かったが、特に行く場所が思い付かなかったのだ。


「ルクシア、今日は一日付き合う約束だからな。ホームには帰ってきたが、なにかあれば言ってくれ」

「うん、わかった」

「あらあら。ルクシアちゃんったらすっかり懐いちゃって」

「からかうなよイリス」

「うふふ、ごめんなさい。ルクシアちゃん、いっぱいワガママ言っておくのよ?」

「うーん? わかった」

「無理して考えなくていいからな……」


 全く、イリスは意地が悪いな。

 神族は心が綺麗ってのは嘘だったのか?


 そんな意地悪なイリスから、入れ知恵をされそうなルクシアは少し考える素振りをした。

 だがやはりこれといった用事はないみたいだ。

 俺に出来る事なら叶えさせてやるつもりだったが、まぁこういうのは無理矢理考えるものじゃないからな。


 ……今日一日、一緒にいて思ったが、ルクシアは少し受動的すぎるかもしれない。

 とは言っても飯の事になると話しは別だけどな。

 なんて事を考えてしまうのは、親目線すぎるか。

 リリアといいルクシアといい、ついつい心配になるんだよな……。


 俺はそんな考えを頭から追い出す。

 そして上の階にある物置部屋——つまりは俺の部屋へと向かう事にした。


「じゃあ俺は上の部屋にいるからな」

「わかった」

「あ、じゃあ後で私が行くわね」

「イリスが? なにかあるなら今聞くぞ」

「ううん。まだ内容は決まってないの」

「なんだそれ」

「うふふ、いいから」

「分かったよ。じゃあ二人とも、なにかあったら部屋まできてくれていいからな」


 二人へそう言うと、俺は階段を上がって一番奥にある少し狭い部屋へと入る。

 少し前の俺たちは、まだ知り合って間もなかったので、みんなに気を使って紅玉亭に部屋を借りていた。

 だがみんなとの距離感を縮めるため、俺もこのホーム内で生活するという事になった。

 その際に空き部屋がなく、物置として使っていた部屋を片付けるついでに俺の部屋として使う事にしたのだった。

 ……別にリリアに泣き落とされたとかではない、決して、断じてだ。




 俺は狭いこの部屋の半分を占領しているソファへ座る。

 イリスがいつ来るのか分からなかったので、近場にある積んだままの本でも読む事にした。


 そうして結構な時間、読み耽っているとドアをノックされた音が聞こえた。

 おそらくイリスか、それともルクシアだろうか。

 とりあえず誰かが来たのは確かなので、一旦読んでいた本を手近なところに置く。


「私、イリスよ」

「あぁイリスか、空いてるから入ってきていいぞ」

「じゃあ失礼するわね」


 そう言ったイリスが部屋へと入ってきた。

 一体なんの用事だろうか、全く見当が付かないんだよな。

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