五十四話 お誘い
なにか話しがあると言っていたイリスを俺の隣へと誘う。
狭いソファだが、イリスなら気にするほどのことでもないだろう。
「クッションとか用意してなくて悪いな。隣で良ければここに座るといい」
彼女が座る前に一瞬、俺と目が合った……と思う。
だが文句は言われなかったので、やはり気にしていないのだろう。
イリスは美人なのでむしろ俺の方が緊張しているくらいだ。
「それで? 話しってなんなんだ」
「あらあら。女の子を急かす男はモテないわよ?」
「イリスは俺と話しをしにきたんじゃないのか?」
「そうだけど、心の準備がまだ出来てないの」
そう言ったイリスは、口を尖らせて拗ねるような顔をした。
随分と可愛らしい事を言い出した彼女の真意は分からない。
分からないが、少し可愛いと思ってしまったので負けたのはこちらだと思った。
「分かったよ。イリスが喋りたくなったらでいいさ」
「あらあら、優しいわね」
「モテる男だからな」
俺が言い返すと、イリスは笑いながら見つめてくる。
「あらあら? 気にしてるのかしら」
「気になんてしてないぞ」
「うふふ、ごめんなさい。少しからかいすぎたわね」
いじられた俺は大人げなく、少しだけムキになってしまった。
それを察したのかイリスはすぐに謝ってきた。
先程のルクシアの件もあって、イリスの事をジトりとした目で見つめ返す。
「全く……神族はみんな意地悪なんじゃないだろうな」
「そんな訳ないわよ。私もこんな事するのはあなただけよ」
イリスにそんな事を言われて、つい勘違いしそうになってしまった。
彼女は心を許してくれているだけだというのに。
俺は気を取り直して、改めて用事を聞く事にした。
「はぁ、それで? 本当になんの用なんだ?」
「ええ。実は次のデートは私と……神殿に行ってほしいの」
イリスは真剣な顔で俺を見る。
どうしてそんな顔をしながらデートの約束をするのか。
「それは構わないが……なにか理由があるんだろう?」
「……神様に会ってほしいの」
「神様? この前スキルの件で会っただろう」
当然ながら俺はあの軽薄そうな神に用事はない。
という事はイリスか、それとも神が俺に用があるという事だ。
「そうね。でもあなたには話しておいた方がいいと思って」
「……どうにも深刻な話しっぽいな」
「ええ、落ち着いて聞いてほしいの」
「以前ギルドで会った人、サピエルの……
俺はまさか彼女から、サピエルの名前が出るとは思っていなかった。
デートの約束だと思えば神に会ってほしい、その理由はサピエルが行方不明になったから……?
あまりにも衝撃的な話しで、俺は情報が理解出来ずにいた。
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