五十二話 太陽の笑顔

「それでそれで? 二人はどこで出会ったんですか?」

「んぐんぐ、んぐ、んぐぐ」


 サーヤが話し掛けているが、ルクシアは食事に夢中のようだ。

 全く相手にされていないのに、嬉しそうにしているのは凄いというかなんというか。

 おそらくだが、ルクシアが食べているのを見るのが楽しいんだろう。


「サーヤ、仕事戻らなくていいのか」

「今は休憩中だから大丈夫です」

「さっき注文した分を取りに行っていただろう」

「それはそれ、あとはお父さんに頼んでありますから」


 サーヤはこう言っているが、きっと仕事を押し付けてきたに違いない。

 親父さんには謝っておかないとな……。


「んぐ、んぐんぐ」

「どう? ルクシアちゃんおいしい?」

「おい、しい、んぐ」

「食べながら喋るのは止めた方がいいぞ」


 俺が注意すると、ルクシアはゴクンとのどを鳴らしてから話しだした。


「すごく、おいしい」

「えへへ、ありがとー」

「どうしてサーヤがお礼を言うんだ……」

「別にいいじゃないですか、紅玉亭ウチで提供した物はウチの物、なんですから」


 なんとも横暴な理論だと思ったが、口を出す理由もなかったので流しておく事にした。

 サーヤは昔からどうにも料理が苦手みたいで、お互いがまだ小さかった頃に何度か『味見(どくみ)』をさせられた記憶がよみがえってきた。

 俺はそれを払拭しようと、手元にある黒い水を一気に飲み干した。




「満足したか?」

「うん、おなか、いっぱい、しあわせ」

「そうか、それなら良かった」


 昼前には店に来たはずの俺たちは、周りの客が一人も居なくなるほど長居してしまった。

 ……いや、山盛りで次々と運ばれてくる料理の量を考えれば、むしろ早い方だったかもしれない。

 とはいえ売り上げに貢献も出来たし、サーヤも喜んでいたし、紅玉亭に連れてきた甲斐があったってもんだ。


「デート、たのしい」

「そうだな。今度はもう少し静かなところにしような」

「えぇ! そんなぁっ!」

「そりゃそうだろう。うるさいのがずっと食事の邪魔をしてくるからな」

「だってしょうがないじゃないですか! ほっぺた膨らんでるルクシアちゃんが可愛くて可愛くて!」


 仕事がひと段落したのか、またサーヤが顔を出してきた。

 途中はずっといたような気もするけどな……。

 ルクシアにメロメロになっているサーヤに呆れながら、俺は席を立つ。


「俺たちもそろそろ行くとするよ」

「そうですかぁ……じゃあ、お会計しますね」

「頼む」


 俺はサーヤに金を渡して、ルクシアと二人で下へと降りていく。

 一階に降りると親父さんがいたのでサーヤの件を謝っておいたが「気にするな」としか返されなかった。

 かなり忙しそうな時があったが……本当に大丈夫だったのか?


 いや終わった事は俺が気にしてもしょうがないか。

 今度またその内、一人で来る事にするとしよう。

 絶対に、一人で。




 ――帰り道、俺とルクシアが並んで歩いていると、彼女の方から喋りかけてきた。


「シン、きょうは、ありがとう」

「いいさ、あいつらがデートデートってうるさかったのもあるが……クエスト頑張ってくれたお礼だ」

「ううん、ちがう、いいたいの、だから、ありがとう」


 そう言ったルクシアは、日差しにも負けないほど眩しく笑っていた。

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