五十一話 止まらない女
俺とルクシアは紅玉亭に、デート……に来た。
デートとは言っても、俺はそんなシャレたものだとは思ってない。
おそらくだがルクシアも、今日は好きなだけ食べられる、くらいしか思ってないだろう。
だからこそこうして馴染みの店に来た訳だが……。
「いらっしゃいま……おやおやおや~? これはこれは、シンさんったらスミに置けませんねぇ~!」
「ここ数日忙しくてな、空いてるか?」
「それはもう! お好きな場所に……いや! お店のどこからでも見える、いっそここで、どうですか!!」
「じゃあいつもの所で頼む、ルクシアいくぞ」
「うん」
「ルクシアちゃん!! 可愛いですねぇ~!! それで、どこでこんな可愛い子と? 以前一緒だったエルフの彼女さんはもう捨てちゃったんですか? シンさんったら酷い男なんだからぁ~!」
俺たちが入るなりサーヤは矢継ぎ早……どころか文字通り、マシンガンのような話しっぷりで絡んできた。
余りに余るくらいうるさいので全てを無視して、階段をのぼってお気に入りの――奥の陽当たりの良い場所へと座る。
「うるさかっただろう」
「うん」
「だから言ったんだ」
「でも、たのしそう」
「そうだな」
俺含め紅玉亭に来るやつは、いつも来る度にサーヤに元気を貰っている。
誰と喋っていても楽しそうに給仕をしている彼女には、客商売が合っているのだろう。
そうして喋っていたら待つ時間もなくサーヤが水を持ってきた。
「お待たせしました! お冷です!」
「ああ、俺はいつもので良い」
「分かってます。それで? ルクシアちゃんはどうしますか?」
サーヤがお前は喋らなくていい、と言わんばかりの対応に俺は苦笑する。
ルクシアはメニューを眺めているがどれも美味しそうで悩んでいる、といったところか。
「うーん……」
「悩むか?」
「うん」
「ルクシアちゃん、悩んでる姿も可愛い……!」
「今日は気にせず頼んでいいんだぞ」
「……! そうだった」
俺が助け船を出してやると、ルクシアは一気に目がキラキラと輝きだした。
サーヤは俺の言葉を聞くとニヤニヤしながら、なんの日ですか?記念日かなにかですか?と聞いてくる。
それを全て無視しながらルクシアの分を注文していく。
「これと、これと、これと、これと、これ」
「じゃあそれを全部頼む」
「えっ、そんなに大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ、だから早く注文通してくれ」
「そんなに邪見にしなくてもいいじゃないですかぁ! それで、今日はデートですか?」
「そう、デート」
「んふふふふ……。はい、ご注文ありがとうございます!」
「はぁ……ゆっくりでいいからな」
「すぐに、お持ちしますね!」
走るように厨房へと向かったサーヤの、あのにんまりとした顔……。
これはもう明日と待たずに街中に広まってるだろうな……。
「ルクシア、サーヤと話さなくてもいいって言ったろう」
「でも、うそいってない」
「そうだな……」
俺は早速『サービス』でサラダを運んでくるサーヤの姿を見ながら、がっくりと肩を落とした。
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