三十五話 啓示の開始

 俺たちは、イリスのスキル表を確認していた。


 モンスターに直接ダメージを与えられる、攻撃用のスキルがあればいいと思って神殿ここにきた。


 だが俺たちが期待していたような、目当ての物は見当たらなかった。




「やっぱり、ダメージスキルはなさそうね……」


「ないものはしょうがない、支援スキルからなにか選ぼうか」


「そうですよ、それと折角だし家事スキルも見てみましょうよ!」




 俺とリリアがイリスを励ますように助言をしてみた。


 すると神からも提案がきた。




「それなら<フラッシュバインド>なんてどう? 消費MPは高めだけど、足止めには最適だと思うわ」




 神が進めてきたのは『敵の目の前に光の玉が現れ、その玉が弾けて縄状に変化して動きを止める』というものだった。


 イリスはいかにも『残念……』と顔に書いてあったが、神の言葉を聞いてそのまま従う事にしたようだ。




「そうですね、ならそれをお願いしたいです。あとはこの<天使の靴アンジェロ・ポーター>も一緒にお願いします」


「オッケー、じゃあ<フラッシュバインド>と<天使の靴>の二つね。一応もう少しポイントが余ってるけど、大丈夫?」


「はい、また次回まで貯めておこうと思います」


「そう、分かったわ。じゃあ更新しちゃうわね」




 神がそう言うと、またカタカタと音が鳴る。


 その音が鳴り始めて十秒も掛からずにまた、神が話しを始めた。




「それで? 他の子はなにかあるかしら?」


「わたしの、なにか、見たい」


「ルクシアちゃんね、ええとね……。はい、これ」




 神が今度はルクシアの画面を見せてくれたが、どれもポイントが足りてなさそうだった。


 ルクシアも新しいスキルが手に入らなかったので、つまらないといった顔をしている。


 そこにラプスウェルが、自分の番とばかりに喋り出した。




「じゃあ次はあたしね!」


「ラプスウェルちゃんね。あなたのは……これかな?」




 彼女の画面を見ると、ルクシアとは違っていた。


 それはいくつかスキルが解放できそうなほど、ポイントが貯まっていたからだ。




「すごい! ポイント沢山持ってるじゃないですか!」


「ほう、これなら選り取り見取りって感じだな」


「あんたたちと会う前に一人で生活してた時期があったから、その分だと思うわ」




 俺やリリアの反応に気を良くしたのだろう。


 ラプスウェルはニヤけた顔をしたまま、自分の手を胸に置きながら説明をしている。


 その説明をほとんど聞いていない俺は、早速彼女が使えそうなスキルを探す。




「ユニークスキルはどうだ? 使役スキルの<眷属スレイブ化>とか、他にも支援スキルの<魅了チャーム付与>とか便利だと思うぞ」


「……いらないわ」




 俺の言葉を聞いたラプスウェルは、急に機嫌の悪そうな顔に変わった。


 この他にも良さそうなスキルがあったので聞いてみる。




「そうなのか。じゃあパッシブにある<真祖返しんそかえり>とか――」


「いらないってば!!」




 ラプスウェルは顔も身体も、完全に俺から背けた。


 彼女は魔族としての、特に吸血種きゅうけつしゅとしてのユニークスキルは、あまり開放したくないらしい。




「ラプスちゃんも拗ねちゃったから。これ以上は、ね?」


「……あぁ。なにがあったかは分からないが、すまなかった」




 イリスに咎められたので、俺は謝る事にする。


 前にもあったな、こんなやり取り……。


 俺は空気が少し、悪くなってしまった責任を感じた。




 でもこの空間は窓の一つもなく、換気すら出来ない部屋なのも悪いと思うんだが。

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