第二章【神殿】

三十二話 楽しい休日

 俺たちは街の中心部にある神殿へと向かうため、長く伸びる市場通りを歩いていた。




「あれも、たべる」


「ルクシアちゃん? さっきも果物食べたわよね?」


「はい……」




 小さい身体ながら、食欲旺盛なルクシア。


 だがすぐにイリスに怒られている。


 それもそのはず、ホームを出る前に朝食を食べ、市場へと着いてすぐに肉を食べ、甘い匂いのする焼き菓子を食べ。


 そして五分ほど前に、爽やかそうな果物を食べたルクシアだ。




 俺個人の金なら、以前の稼ぎで余裕があるから構わないが……。


 まだ贅沢が出来るほど稼いでいない『Gem's Ensembleおれたち』としては無駄な出費は減らしたいしな。


 すると少し先の出店を見ていたリリアが俺を呼んだ。




「シンさん! このアクセサリー可愛いです!」




 みんなで見に行ってみると、どうやら髪に乗せるタイプのアクセサリーを見ていたようだ。


 宝石は付いていないが装飾がよく出来ていて、出店にしてはなかなかの値段が書かれている。




「リリア。確かにその猫の耳と同じ形の髪留めは可愛いが、なんの効果も付与されていないぞ。」


「可愛ければいいんですよ! それにルクシアさんとお揃いですっ」


「おなじ」




 そう言ったリリアは、アクセサリーを自分の頭に乗せてルクシアの横に並ぶ。


 ルクシアも二本の指を立てて「ぶい」なんて言っている。




「そうだな。でも後ろにモンスターのような顔の、神族かみぞくのお姉さんがいるぞ」


「リリアちゃんまで……!!」


「あわわわわ、ごめんなさいっ!」




 さっきまではしゃいでいたリリアは、すぐに店主へと返すと俺の隣に来る。


 そうして俺たちは騒ぎながら歩いていると、ラプスウェルが急に横の道を指差して告げてきた。




「あたしこっちの店に用事あるから。先に行ってていいわよ」


「用事? どんな店なんだ?」


「いやっ、その……な、なんでもいいじゃない!」




 折角一緒に来たのだから、みんなで行けばいいだろうに。


 ラプスウェルは、うろたえながら顔を真っ赤にしている。


 なにか隠したい事でもあるのだろうか。


 俺がそう思っていると、イリスが慣れた感じで質問をする。




「ラプスちゃん、いつもの?」


「……うん」


「そう、分かったわ。じゃあ遅れないようにね」




 二人の中で、あっさりと話しが通じていた。


 俺は納得できなかったが、なにか言いたくない事情があるのだろう。


 するとイリスが「種族特有のもので、まだ恥ずかしいみたいだから。許してあげてね」と教えてくれた。


 そういう事ならしょうがない、魔族という種族についてはまだ知らない事ばかりだからな。


 もっと距離が縮まれば教えてくれるだろう。




 俺たちはラプスウェルと別れると、引き続き出店を回りつつ神殿へ向かう事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る