三十一話 その後、再会
「サピエル!」
「そんな……嘘だろ……」
右腕を失ったサピエルを目の当たりにした二人は、クエストの失敗を確信した。
「二人とも……撤退、するぞ……」
「分かってる!」
「あ、当たり前だろ! なんだよっ、使えねぇなくそ!」
グングは襲ってきていたデザート・ワームを、槍を使って横に逸らせるとサピエルを起き上がらせた。
片腕と剣を同時になくしたサピエルは、痛みと喪失感に顔をゆがませた。
だがまだ戦闘中だ。
サピエルはここから離れるために、思考を切り替えた。
「クルト、悪いが前を頼む。グングは後ろを」
「勿論、任せてくれ」
「は? いやいや無理だわ」
「クルト、
「……チッ。分かったよ、やりゃいいんだろやりゃあ」
「助かる、言い争うような時間はないからな」
フォーメーションを決めた三人は、早速<サイレント・デザート>から離れようと走り出した。
その際に後ろを確認したグングは、サピエルが減らしたであろうデザート・ワームの数を見て少し安心した。
この数なら逃げきれる、そう思ったからだ。
だがそれがグングの勘違いだったと、理解する事になる。
「うわぁっ!!」
「くっ、足元が!」
グングの少し前を進んでいた二人が、海のようにうねる砂に足を取られている。
その周りには二人を囲むように、デザート・ワームたちが身体を震えさせていた。
この行動で砂を振動させて、標的を足止めする。
複数で集まっているデザート・ワームたちの注意すべき習性の一つだった。
こういったモンスターの情報は、いつもシンが仕入れてきていて彼らはただ倒すだけだった。
つまり今回のクエストはクルトの準備不足は関係なく、失敗する事が最初から決まっていたようなものだった。
しかもサピエルやグングも含めて、誰一人としてデザート・ワームの事を調べようとしなかったのだ。
もしディードが生きていたのなら、この習性は知っていただろう。
だがそのディードは今や、跡形もなく消滅してしまっていた。
「二人とも大丈夫か!」
「うわあぁっ、あああっ!」
すぐに追いついたグングは、波打つ砂の範囲外から二人へと声を掛ける。
クルトは情けない声を出しながら、一心不乱に剣を振り回していた。
サピエルは膝を地面に付けて、揺れが収まるのをただ耐えている。
グングはそんな二人を助けようと、震えている周囲のデザート・ワームに攻撃を仕掛ける。
「おらぁっ、こいつ! 止まれよ!」
これまでの戦闘でMPを使い果たしていたグング。
ただの攻撃では大したダメージを入れる事が出来ないと分かっているが、それでも攻撃を続ける。
そしてグングの攻撃が多少でも効果があったのか。
デザート・ワームたちは一斉に動きを止めて、グングに向かっていく。
その数、十、いや二十匹以上が襲い掛かる。
数匹の相手で手間取っていたグングが、その物量に耐えられるはずもない。
大津波のような勢いのデザート・ワームたちが通りすぎた場所には、グングの持っていた槍すら残されていなかった。
「そんな……」
「くっ」
二人は一瞬で消滅したグングに衝撃を受けた。
だが砂を揺らしていたデザート・ワームたちが、一斉にグングへと向かったおかげで、二人の足元は安定していた。
それによって動けるようになったサピエルは、生き残るためにクルトに声を掛ける。
「クルト! 今の内だ!」
「もう……死ぬんだ……」
「クルト!!」
呆然としたままのクルトには、サピエルの声が届いていない。
そして一匹のデザート・ワームが、クルトの足元から現れる。
クルトはなんの抵抗をする事もなく、消滅した。
武器を失い、右腕を失い、パーティメンバーまで失ったサピエル。
それでも生きて帰る事が大事だと、冒険者の父に叩き込まれていた彼は、一人でデザート・ワームたちから離れていった。
何匹かのデザート・ワームが彼を追いかけたが、スキルを駆使してなんとか<サイレント・デザート>から出る事に成功したのだった。
そしてたった一人、ボロボロの状態で街に帰還したサピエル。
彼はその足で冒険者ギルドへ向かうと、クエスト失敗を受付嬢へと伝える。
すると受付嬢が「え……? 失敗、したんですか?」と驚いた。
そう言われたサピエルは、失ったものたちを思い出して怒りが沸いてきた。
彼は沸いた感情のまま、ギルドに対しての文句を口にする。
「あれはSランクのクエストじゃない、数が多すぎる! あれでは上位の高難易度Sランクだ!」
「そんな事は……報告書では五匹から十匹だと……」
「五匹……? 二十匹は軽く越えていたぞ!」
「そう仰られましても……」
二人が言い争いをしていると、ギルド内に入ってくるパーティがいた。
新たにシンが加わった『
「なにやら騒がしいな、なにかあったのか?」
サピエルの声は、ギルドの外にまで聞こえていたようだ。
「たぶん、あの人」
「あれは……サピエル?」
ルクシアが示した先にいた人物をシンが認識する。
そして名前を呼ばれたサピエルも、シンに気付く。
「シン……!!」
「久し振りだな」
サピエルは恨めしそうな目で、シンを睨み付けた。
だがシンは、顔色一つ変えず、サピエルと対峙したのだった。
あの時と違うのは、シンには仲間がいる。
サピエルには、誰一人として仲間はいない。
これはまだ少し、未来の話し……。
パーティを違えた二人が、久し振りに交わった瞬間だった。
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