十二話 様々な宝石たち

 俺はリリアたちのホームへと急いでいた。


 待ち合わせの時間がある訳でもなく、予想より遅くなったという訳でもない。


 本当ならサピエルのホームで、片付けを終えた後に向かう予定だった。


 なのでむしろ、もう少し遅くなると思っていたくらいだ。




 それなのに俺が急いでいる理由は、昼飯だ。


 何を食べるか、どこで食べるか、色々問題はある。


 それに最初にコミュニケーションを取る為には、同じ食卓を囲っておく事も重要な事だろうと思う。


 勿論毎回そうだと面倒に感じる時もある。


 だが今回は初めて顔を合わせるのだ。


 昼飯の時間と被って行き違いになるのは面倒だしな。


 それくらいの労力は掛けておいた方が良いと思ったので、途中で食べるのは止めて少し早めに着く方を選んだ。








 俺の足は急ぎながら、頭ではファーストコンタクトを考えて歩いている間に目的地へ着いてしまった。




 見た目は昨日聞いていた通り、茶色や白の配色で落ち着いた雰囲気のある二階建ての一軒家といった感じだ。


 管理パーティ名は……『Gem's Ensemble』、宝石ジェムアンサンブルいか。




「ここだな」




 パーティ名に間違いがない事を確認すると、扉に付いているベルを鳴らす。


 するとホームの中から「はーい!」と元気そうな声が聞こえてきた。




「シンさん! いらっしゃいませ! 意外と早かったんですね」


「あぁ、片付けが予想以上に早く終わってな。昼飯の時間と被ると困るかと思って早めに来たんだ」




 ホームから顔を出したのはリリアだった。


 昨日着ていた戦闘用の服とは違い、今日は歳相応の部屋着――というよりは少々気合が入ってそうな見た目ではあるが。


 とにかく部屋着を着ていて、とても可愛らしい印象を受ける。


 特に肩は出ているが、腹や足も露出している訳ではない。


 今の時期、春の陽気に合わせてあるのだろう。


 白やピンクがメインで、ところどころに黄や薄緑も入っていてカラフルながらもリリアに良く似合っていた。




「じゃあ折角なのでシンさんの分もご用意しますね!」


「そうか、じゃあ頼もうか」


「任せてください! じゃあ、まだ準備中ですけど中へどうぞ」


「あぁ、邪魔をする。それとその服、良く似合っているな」


「あ……ふふ、ありがとうございます」




 俺はリリアに促されるままリビングに通される。


 するとリリアよりも小さいだろう少女が、テーブルに顔を突っ伏した状態で椅子に座っていた。




「邪魔をする」




 そう声だけ掛けると、少女の頭の上部に付いている猫のような耳がピクピクと動いた。


 少女は寝惚けた顔のまま俺を確認すると、座った状態で背伸びをして話しだした。




「だれ……?」


「俺はシン、シン・グラベリウスだ」


「シン?」


「あぁ、今日はリリアに誘われて来た」


「そう」




 何度か会話をしたと思ったら、少女はすぐにまた寝ていた。


 名前も教えてもらっていないが、まぁそれはその内分かる事だろう。

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