十話 オシオキ
クルトは一気に俺との距離を詰めてくる。
そのまま剣を上段に構える、そしてかなり大振りに振り下ろしてきた。
だが反対に俺は全く動かない。
俺は身体の代わりに、目だけをしっかりと動かす。
そう、俺はクルトの動きを観察していた。
相手の剣先の動き方、身体捌き。
見るだけで避けられる、とまでは言わない。
それでもクルトみたいなまだ経験の浅い相手なら、攻撃される部位や踏み込む位置などは簡単に分かる。
「もう始まってますよぉ! ここまで動けないとかダサすぎっしょ!」
「動く必要がなかっただけだ」
俺は左後ろ側に身体を捻りながら、ただ一歩、動いた。
それだけでクルトの剣は空を切った。
「は?」
「当たっていないぞ」
俺に攻撃を避けられたクルトが、あまりにも面白い顔をする。
つい笑ってしまいそうになったが、試合の途中なので堪える。
「ナニ笑ってんだよてめぇ!」
「いや。若いな、と思ってな」
堪えたつもりが少し顔に出てしまっていたようだ。
しょうがないので俺は思っていた事を正直に白状した。
「おっさんがイキがってんじゃねぇぞ!」
「やれやれ、血の気が良いとかいう話しじゃないな」
クルトが闇雲に振り回す剣を、俺は先程と同じ要領で軽々と避けていく。
横薙ぎ、突き、袈裟斬り。
そのどれもが俺には当たらない。
「全然、駄目だな、しっかり狙わないと、高速で動く敵には、当たらないぞ」
「うるせぇな! 避けてばっかりのくせに!」
「だったら、そろそろ、反撃させてもらおうか」
これだけクルトに攻撃させてやったんだ。
次はこちらがターンをもらう事にしよう。
頭に血が上ったままのクルトが、またもや上段に構えながら大胆に踏み込んできた。
このタイミングは脇腹に隙がある。
すれ違うようにこちらも踏み込んでから、傷だらけの篭手を付けた腕で一撃。
「ぐぅっ!」
「上で構える時、脇が隙だらけだったぞ」
「黙れよクソがっ!」
俺が殴ったところを抑えながら膝を付くクルト。
悔しいのだろうか、今すぐにでも俺を斬り殺そうという顔で睨み付けてくる。
「人が忠告してやってるんだ、大人しく聞いておいた方が良い」
「サピエルさんならともかく、サポーターを何年も続けてるようなアンタの話しなんか聞くだけ無駄だろ!」
「まずはそういうところから直すべきだ。ほら、いつまで座ってるんだ。次行くぞ」
俺はクルトの顔に向かって腕を振る。
それを顔を下に向けて避けるクルト、だがそれは悪手だ。
今の一撃はフェイント、本命は腕を振り抜いた後に一回転からの回し蹴り。
そんな大振りの攻撃、戦闘経験の多いグングなら見るまでもなく予測していただろう。
あげくクルトは下を向いた、つまり俺の攻撃動作すら見ていなかったのだ。
これは直撃だ。
「ぐはぁっ!」
「敵から目を逸らすな、どんな動きでどんな攻撃が来るか。見ないと分からないだろう」
クルトは受け身も取れず、地面を転がる。
強力で無慈悲なモンスターならいざ知らず、俺程度にここまでやられるクルトが少し心配になってくる。
グングが教育していると思っていたが、もしやクルトが話しを聞いていない可能性もあるか。
「これで分かっただろう、クルト。お前が馬鹿にしていた俺にすら勝てないのなら年上の話しはしっかりと聞いておけ」
俺はグングの方を見ながらクルトに示してやる。
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