九話 私闘の開始
ニヤ男は俺の警告を聞き入れもせず、拳を突き出してきた。
ここは大人が二人通れる程度の広さしかない廊下。
それでも俺は余裕で避ける、避けられる。
俺の動きが凄いとか早いとかいう訳ではなく、長年の経験からこの程度の攻撃なら避けられるからだ。
「だから言っただろう、お前の攻撃程度じゃ当たらないぞ」
「あー……もういいわ、マジ切れた」
そう言ったニヤ男の顔は、既に怒りで染まりきっていた。
そのまま新調したばかりという武器――腰に装備していたショートソードを引き抜いた。
……何故こんな狭いところで剣なんて振り回そうと思うんだ?
「やめておけ、その剣じゃ狭い通路での戦闘には向かないぞ」
「……ハハッ、何? 怖気づいちゃったわけぇ! でも許さないっつーの!」
ニヤ男が何を勘違いしたのかは知らないが、そのまま剣を横に振りかぶる。
が、当然すぐ横の壁に剣がヒットして弾かれる。
「ッ!」
「だから、言っただろう。人の忠告は聞いておけ」
「るせぇな! 黙ってろや! おっさんの癖に!」
コイツはさっきからどうにも口が悪いな。
それこそおっさん臭いが、少しお灸を据えてやらないといけないかもしれない。
「分かった、少し相手してやるから外でな」
このまま殴るくらいはしてやっても良かったが、コイツは年上への態度がなっていない。
自己評価が高すぎるのと、他人を見下す悪癖だろう。
俺は一度鼻っぱしらを折ってやる必要があると思った。
「さっきからバタバタとなんだよ……起きちまったじゃねぇか」
俺たちのいる更に奥の部屋から小太りの男、グングが顔を出した。
コイツも俺ほどではないが、このパーティの古株といったところだ。
パーティを抜けた今では、ニヤ男と一緒にサピエルの腰ぎんちゃくをやっているようにしか見えないがな。
昨日俺たちが冒険者ギルドで別れる前に、ニヤ男と一緒に小馬鹿にされたのは忘れていない。
抜けたパーティとの関係をわざわざ険悪にしたくはないので、俺はそんな事を口に出したり顔にも出したりはしないが。
「あ? シンじゃねぇか。どうしたんだよ」
「サピエルに言われた通り、部屋を片付けに来てな。もう用が済んだから帰ろうとしてたんだが、な」
「なるほど、それでクルトに絡まれたって事か。ははは、災難だったなシン」
「笑い事じゃない、しかも年上に対する礼儀もなってないぞ。グング、教育不足なんじゃないのか」
「うちは実力主義、そんな事知ってるだろ? だからまぁ、これくらい血の気が多い方がいいんだよ」
「ごちゃごちゃウルサイっすよ! すぐボコしてやるから早く外出ろや!」
既に外に出ていたニヤ男……いや、クルトだったか。
俺はクルトに急かされる形で、ホームの外に設置されている庭へ出る。
見学のつもりなのかグングも付いてきた。
俺たちはグングの事は気にせず、そのままある程度の距離を取った。
「折角だからな、見ててやるよ。シン、危なかったら止めてやるからな」
「それは安心だな」
「じゃあ合図行くぞ……始めっ!」
やはり小馬鹿にした感じのグングが、俺へと話し掛けてきたが軽く流す。
そして俺とクルトは、グングの合図で対照的に動き出した。
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