八話 冒険者、それは須らく戦う者

 俺は見慣れたホームの前に来た。


 そのまま開き慣れたドアを開ける。


 通り慣れた廊下を進み、使い慣れた部屋へと入ろうとした。


 だが部屋の中は、全くと言っていいほど様変わり……いや、俺が住んでいたという証が全てなくなっていた。




「なんだ、これ」




 俺は部屋の入り口でただ、立ち尽くしていた。


 すると、左の方から声が掛けられた。




「あっれー? シンさんじゃないすか、何か用っすかぁ?」




 全く気が付かなかったが、おそらく隣の部屋から出てきたのだろう。


 嫌味のあるニヤついた顔で俺に質問をしてきた。




「あぁ。昨日サピエルに言われた通り、部屋を片付けに来たんだが……」


「へぇー? でもシンさん、アンタの部屋。もう片付いてるんで大丈夫っすよ」


「その事だ、俺の部屋は? これは一体どういう……」


「見て分からないんすかぁ? アッハハ! アンタの物なんてぜーんぶ換金したんで、もう何も残っちゃいないっすよ!」




 アイテムなどの換金が出来るところと言えば……商業ギルドだろうな。


 そこで買い取ってもらったという事か。




「俺の武器や本、それ以外の家具なんかも全てという事か?」


「だから見たまんまっすよ。昨日アンタが帰ってこなかったからさぁ、サピエルさんに聞いたら許可出たんで俺たちの装備新しくしちゃいました。いやぁ助かりましたよ。ホームインベントリにドロップ品とかめっちゃ貯め込んでてくれてさ!」




 いちいち癪に障る、サピエルの腰ぎんちゃくの……ええと、ニヤ男でいいか。


 ニヤ男の装備を見ると、確かに傷一つ付いてない綺麗な物のように見える。


 俺がこれまで収集、加工などしておいた物、つまり冒険者としての痕跡が消えてしまったという事だ。


 コイツが昨日の会話をペラペラと喋ってくれた。


 そのお陰で完全にこのパーティとの縁えんが切れたんだと感じた。




「そうか、もう分かった」


「いやいや、それだけ? もうちょっと反応欲しいんすけど?」


「お前と話す事はもう何もないからな、じゃあな」




 俺はすぐにここから立ち去ろうと歩き出す。


 だがニヤ男が立ち塞がって邪魔をしてくる。


 どうやら俺が悔しがっている顔が見たかったようだ。


 それに構わず隣を通っていくと、いきなり肩を掴まれた。




「勝手に行くんじゃねぇよ、おい!」


「何だ? 俺はこれから用事があるんだ、邪魔しないでくれ」


「ナニ? 調子ノってる訳? ただのサポーターだったアンタが、よくそんな口叩けるよなぁ?」


「確かに俺は強力なモンスター戦では役に立たなかったかもしれない、だがお前程度なら簡単にあしらえるくらいには冒険者やってるんだよ、だから止めておけ」




 俺がそう警告してやると、みるみるうちにニヤ男の顔の形相が変わっていく。




「はああぁぁ!? いやホント、なーに調子こいてんの? おっさんさぁ、さっきも言ったけど。アンタみたいなのはただの寄生虫サポーターで、モンスターを狩る俺が冒険者なの、分かってなさすぎるでしょ。その認知症、今からボコして直してやるよぉ!」

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