四話 ネゴシエートはお腹から

 リリアの話しを聞いて原因を考え込んでいると、サーヤが食事を持ってきた。


 俺たちはサーヤにお礼を伝えて、食べ始める事にした。




 リリアは何度かスプーンを口まで動かしたと思ったら、行儀悪くもオムライスの端の方をスプーンでつつきながら先程の話しを続けだす。




「別に仲が悪い訳じゃないんです。でも実際に戦闘が始まると、どうにも噛み合わない感じでして」




 俺はリリアの話しに耳を傾けながら、いつも注文する物を味わっていた。


 パンと手ごねの挽き肉――サーヤはハンバーグと言っていたか。


 更に野菜のスープも一緒に頼んである、これは少し硬いパンを浸す事によって柔らかくする為だ。


 俺はそれらの料理を、決まった順番で口へ運んでいく。




「それでですね。ギルドで何かいいクエストが無いかと探していると、Sランクのパーティの方が抜けるという話しが聞こえてきまして」


「あんなとこで話しをしていれば、誰でも聞こえてるだろうな」




 俺は少し苦笑しながら答える。


 あの瞬間は別に何も思う事は無かったが、こうしてリリアに言われると少し恥ずかしい気持ちが湧いてきてしまった。




「なのでその方に力を貸して貰えれば、と思いまして」




 俺はリリアの話しに怪しいところが無いかを考える。


 考えた……が、エルフの王女様が俺を騙す理由も無ければ、俺が断るような理由も無い事に気付く。


 それに亜人種ばかりのパーティというのも、少し面白そうで見てみたいという欲が湧いてきている。




「力を貸す、か」


「やはり、駄目……でしょうか」


「はっきり言うとそうだな、まだ決めかねてる」


「そうですか……」




 リリアがそれはもう分かりやすく肩を落とす。


 そんなリリアに俺は声を掛ける。




「決めかねてる、だ。入らないとしても折角だし、アドバイスくらいはしても良い」




 項垂れていたリリアは、俺の言葉を聞くと首を痛めるんじゃないかと思う速度で頭を上げる。




「本当ですか? 嘘じゃないですよね、今聞きましたからね!」


「そんな事で嘘なんて言わない」


「ふふっ、やったぁ!」




 喜ぶリリアは、大変に愛らしい笑顔を振り撒いてくれた。




「じゃあ私は早速、皆さんに教えてきます!」




 そうしてすぐに立ち上がろうとしたリリアを、俺は引き止める。




「オムライス、まだ残っているが。食べないのか?」


「あ! すいません、つい嬉しくなっちゃって」




 改めて椅子に座って残りのオムライスを食べようとするリリアを見ていると、この少女が実は王女だなんて嘘じゃないのか?


 そう疑いそうなほどに無邪気というか、喋り方や一つ一つの動きが綺麗なだけで、中身はまだまだ少女なんだなと俺に感じさせた。




「構わない。ゆっくり食べていいぞ、俺は忙しくないからな」


「ふふっ、ありがとうございます。それじゃあじっくり頂いちゃいますね」




 そうしてリリアの小さな口に、スプーンが運ばれていくのを俺は微笑ましい顔で眺めていた。

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