二話 紅玉亭にて初めまして

 俺は紅玉亭こうぎょくていに入るなり、空いた席の食器を片付けている赤髪の女性に話し掛ける。




「サーヤ、奥いいか」


「シンさん!いらっしゃいませ。空いてますよ、あれ? その子は?」


「俺に用があるみたいでな」


「なるほどです、では後でお水持っていきますね」




 肩まで伸びた赤い髪と、同じ色をした前掛け――エプロンという物らしいが。


 それを付けた紅玉亭ここの看板娘であるサーヤと軽く話しを付けると、俺は勝手に目的の席まで進む。




 二階にある少し奥の席、昼間なら日当たりの良い場所。


 それが俺のお気に入りの場所だ。


 何か話しをするなら静かだし、丁度良いだろう。




 俺は席に座るとエルフの少女に話し掛ける。


 対面に座る彼女の立ち振る舞いから、俺は美しさを、何か気品のような物を感じていた。




「それで、まずは自己紹介からかな」


「はい!」


「知っているだろうが、俺はシン。シン・グラベリウスだ」


「私の名前はリリア。リリア・リアルブ・ティタニアルです」


「……ティタニアルだと?」




 これは流石に驚いた、耳を見ればエルフと分かったが、<リアルブ>で更に<ティタニアル>だとは。




 エルフ族は元が妖精の分類になる。


 なので名前はその個体の持っている名前か、種族名と呼ばれる家名、苗字が付く程度。


 リリア・リアルブ・ティタニアルなら基本的には<リリア>の部分しか持たない事になる。




 そこから高位のハイエルフなどになると種族名が付く。


 それが<リアルブ>の部分になるのだが、種族名に近い名前ほど『位くらい』が上がる。


 リアルブというのは妖精の一族、そのままエルフ族という意味だ。


 一般的にはもっと関係の無い、例えると……サグとか、ブランの様な名前になる筈だ。




 更に驚いたのが、妖精エルフの国の初代女王ティタニアルから代々受け続いている<ティタニアル>だ。


 ティタニアルの名前を持つという事は……つまり。


 俺の目の前にいるリリアは『エルフ族の王女』という事になる。




「はい、嘘なんて言ってないですよ? 冒険者証を見てみますか?」


「いや……疑ってないから、大丈夫だ」


「ふふっ、ありがとうございます」




 朗らかに笑ったリリアの顔は王女というより、もっと親しみやすいただの少女のような顔だった。


 リリアの笑顔を見たタイミングで、サーヤが水を二人分持ってきた。




「もう仲良くなったんですか? シンさんは本当に手が早いですねぇ」


「サーヤ、誤解されそうな事を言わないでくれ」




 他の女にも同じような事をしているように聞こえるだろ……。




「え……シンさんって真面目そうな方だと思ってたんですけど、違ったんですか?」


「ほらみろ、サーヤ。お前がそんな事言うからだぞ」


「ごめんなさーい、はい。お水です」


「ふふっ、嘘だって分かってます。お水ありがとうございます!」




 俺とリリアの前に水を置いたサーヤは、すぐに「ご注文はいつものですか?」と聞いてきた。


 基本的に俺が紅玉亭で頼む物は同じ物ばかりだったので、一ヶ月もしない内にサーヤから「ご注文はいつものですか?」と聞いてくるようになってしまった。


 だが今日はリリアもいる、俺はいつも通りのつもりだが少し待ってもらう事にした。


 リリアはメニューを眺めながら少し悩んでいる様子だったが、すぐにオムライスというタマゴ料理に決めた。




「これにします!」


「俺はいつものでよろしく頼む」


「かしこまりましたー!」




 元気に返事だけすると、サーヤはすぐに厨房へ向かっていった。

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