第14話
「ソイツは、犯人はなんの為に姉貴達を殺したんだろうな」
ひとしきり泣いたあとに響希は再び口を開いた。
「父さんになにかあったのかな、人狼だったから」
もう尋ねれる人も居ないので今更どうしようもないことだけど、父さん達は人の恨みを買うような人達ではなかったと思う。
「前に東雲さんが言ってた伽々里様って人に頼めばなんとかして貰えないかな?」
「口寄せを行っていたのは先代の伽々里様だけだと聞いているけど。まあ行くだけ行ってみるかい?」
「じゃあちょっと伽々里に聞いてみるよ」
「ちょっと待て。なぜ君が連絡先を知ってるんだ?」
東雲が久しぶりに素っ頓狂な顔で俺の肩をつつく。
そっか、この前伽々里の家の話を聞いたときは知らないってことにしてたもんな。今なら別に言ってもいいか。
「伽々里と同じとこでバイトしてて普通に仲良いから」
「へぇそうだったんだ」
「じゃなくてなんでこの前言ってくれなかったわけ?」
「凛祢のノリツッコミなんて珍しいな」
あんな話他の人には恥ずかしくて言いたくないのでお茶を濁す。
勢いがなさすぎてほぼ単純な質問になってしまっているのが笑えるが。
「もう質問に答えてよ」
怒ったようにむくれた凛祢に折れそうになったが、それでも言いたくないものは言いたくないんだからしょうがない。
「なんでもいいけど早めに連絡した方がいいんじゃねぇの?」
「そうだな」
響希に言われて伽々里にメッセージを送ったところ、今から来てくれても構わないとの事だったので向かうことにした。
長い階段を登り切る頃にはもれなく全員が息をきらしていた。
「いらっしゃい久遠、それにお連れの方も」
巫女服を身にまとった伽々里が俺達を出迎えてくれた。
「お久しぶりです伽々里様、大きくなられましたね」
「流転さん、久しぶりだね」
ここは面識あるって言ってたけど東雲が敬語使ってるところなんて珍しいな。
普段はニートで黒燕に任せっきりなのにこういう時だけ見違える程凛々しくなるのはずるいや。
「ずるいです……」
お、黒燕もそう思うよな。
「なに?この子可愛い過ぎない? その顔であの関係性は軽犯罪でしょ」
と思ったら別の話だった。何やら凛祢と黒燕が眉をしかめてひそひそとそんなことを話している。
たしかに伽々里は可愛いけど黒燕も凛祢も相当だと思う。
どんぐりの背比べならぬガジュマルの樹の背比べ? いや、なんでもないので忘れてくれないか。
「あの人はあんたが人狼ってこと知ってんのか?」
なんてくだらないことを考えていると、不意に耳元で声がしたので振り向くと響希が心底不安そうな様子で伽々里を見ていた。
「あ、いや言ったことはないよ」
「ならバラしてもよかったのか?」
「わからない。でも東雲さんが人狼だってことは恐らく知ってるだろうし、それなりに理解はあるとは思う。それに伽々里のことは信用してるから」
実際には俺が人狼だなんて伽々里に伝えていない。
こんな話会わずに教えていいものではない。大切なことだからちゃんと自分の口から言いたかった。
それと今言ったことは全部俺の勝手な想像で希望的観測だって含まれてる。でも何故だか間違っている未来が想像できない。
だから自然と言うのも怖くない、俺が信用しているのは俺の勘ではなく伽々里自身だから。
「伽々里、あのさ」
「今日久遠が来た理由? なら奥で話そ。お茶くらい出すから」
「それならお言葉に甘えさせて貰おうかな」
俺が言葉を発してすぐ、というかノータイムで言葉が返ってきた。
伽々里の頭の回転がはやいのもあるとは思うが、恐らく俺の思考如きおみとおしなのかもしれない。
「伽々里様はなんでもおみとおしだねぇ」
「あんたも大概だけどな」
忘れていたが東雲とて例外ではない。なんなら平気で人の思考を読んでくるわ、弄ってくるわで伽々里と比べてもなおタチが悪い。
「今心の中で僕のことディスってるでしょ? 傷付くなあ」
「人の思考読むのやめたら傷つかなくて済むんじゃないか」
私も流転様に読まれたいとか黒燕が訳の分からないことを言いだしたので仕切り直して伽々里に連れられ、神社の中へと足を踏み入れた。
そのまま伽々里の家にあがり、気付けば伽々里の自室に居た。
前に来たときは神社に立ち入ることすらしなかったのに2回目で部屋にまでお邪魔するとは思っても見なかった。
伽々里の家は木造建築の豪邸とは言えないまでも、古風な面持ちを残した立派な一軒家で古き良き伝統を引き継いでいるようなそんな印象を受けた。
そんな家とは対照的に伽々里の部屋は水色やらピンク色と言った女の子らしい家具やカーペットが配置されベッドの角には可愛いらしいぬいぐるみが並んでいた。
落ち着いて見える伽々里がこんなにも可愛いらしい内装だと普段とのギャップを感じる。
「あ……この辺のぬいぐるみとか気にしないで」
恥ずかしそうな表情を浮かべながらぬいぐるみ達を手で隠すようにして皆を座らせる。
やってしまったと言わんばかりに唇を噛み締めて震える伽々里には同情したが、貴重な一面を見れたことが俺は嬉しかった。
「はいお茶。それで大勢でここに来た理由って?」
伽々里が茶を全員分用意してベッドの側面に寄り掛かるように腰を下ろし、本題に切り込んだ。
「まず最初に言っておきたいことがあるんだけど聞いてくれるか?」
「聞く為にわざわざボクの部屋に入れてあげたんだけど」
「それもそうだ。じゃあ言うね、俺は人狼です」
凛祢と黒燕は固唾を飲んで伽々里の反応を見守った。
それもそのはずだ。東雲は置いといて俺は伽々里ことを信用しているし、響希は俺の言ったことに誤りがあると思っていない。
だからといって普通の人間はこんなことを言われて、「はいそうですか」とトントン拍子に話が進まないということを知っているから。
「そっか」
一切の疑念すら感じさせず、ただただ俺のありのままの言葉を受け入れたような3文字だった。
ここまで素直に受けとめられるとさすがに驚くが、やはり彼女を信じたことは間違いではなかったのだと感じさせられる。
「待ってくれ、それだけで済むものか? オレが知ったときは一ヶ月は悶々とした日々を過ごしたぞ」
「ボク個人の考えだけど、久遠は久遠でそれ以上でも以下でもないから。だから人でも人狼でも大差ないよ」
たまらず皆が感じたであろう疑問を口にした響希に、伽々里は一切の濁りも感じさせない程に純粋な気持ちでそう答えた。
その言葉がずしりと重厚な音を立てて俺の塞いでいた心の壁をぶち壊してくれたような気がした。
皆が皆、伽々里のような考え方を持っていればこの世界はどれ程生きやすかっただろうな、父さん——。
村雨神社を訪れてから40分近くが経過していた。
時計の針は16時を回りかけている、このままでは目的を果たす前に日が暮れてしまう。
「そろそろ本題に入ろうか。かなり重い話になるけどいいかな?」
「だからそのためにここに入れてあげてるんだけど?」
彼女に確認を取る必要がないのは薄々わかっていたが、なんとなく自分に言い聞かせる為に言っている節もあった。
俺の父親や響希のこと、あの日あったこと全て一から話して伝えた。
その間も終始伽々里は言葉を発することはせず、ただ静かに話を聞いていた。
言葉を発することはなくても彼女の表情はよく変わるのでどんな気持ちで聞いていたかは見ていてよくわかった。それ故にこんなにも繊細な彼女にこの話を聞かせるのは酷く胸が痛んだ。
でも今日来たのは伽々里に辛い話を聞いてもらう為じゃない。俺達の問題だけど俺達にはどうしようもない願いがあるからだ。
「死んだ父さん達から話を聞きたい」
なんてどうしようもないくらい馬鹿げた願いだ。
叶うはずなんかないと思っていた。でもあるかもしれない。叶うかもしれないのなら僅かな希望にだって俺は縋りたい。
「伽々里の協力が必要なんだ。俺や響希の勝手な願いでしかないことは分かってるし、君に全く関係のないこんな話を聞かせるなんて酷いやつだって自覚してる。それでももし叶うのなら俺は君に頼みたい。力を貸してくれ」
「オレはあんたとは初対面だし、こんなの簡単にできることじゃないのは分かってる。でもいい加減こんな辛ぇもん背負って生きるのは嫌だ、疲れた。ケリをつけたい。だからお願いだ」
「それで久遠やあなたが楽になるなら」
首を軽く傾けて優しげな笑みを浮かべて伽々里は俺と響希の願いを承諾した。
その神々しさたるや、聖母と見紛う程だった。
「ありがとう。本当に」
「……恩に着る」
俺と響希はただひたすら彼女に感謝するしかなかった。
他に今してあげられることが見つからなかったからだ。
「お礼はまだ待って。口寄せの経験がないから保証はしてあげられないもん」
「俺達の為にやってくれようとすることが嬉しいからいいんだよ」
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