第6話
翌日の夕方、バイト先のファミレスへ向かった。
伽々里と会うのが気まずくて休もうか躊躇ったが、きりがないと割り切って向かった。
しかし、伽々里はバイトには来なかった。
ただの偶然だと思ったが、次のバイトもその次のバイトも伽々里は休んだ。
仕事熱心な伽々里が、ただ気まずいからと言って何日もバイトを休むだろうか。
店長に聞いても用事があるとしか聞いていないようだ。
さすがに少し気になってメッセージを送ってみたが返事はなかった。
擬似デートの日から一週間以上が経ち、俺はこの前東雲が言っていた村雨神社に向かっていた。
「確かこの山の奥にあるんだっけ、伽々里の家」
携帯アプリの地図で位置を確認し、村雨神社があると山を見つけた。
「いつまでも先延ばしにしても意味ないんだしシャキッとしろ!」
別に俺も伽々里も振ったわけでも、ましてや振られたわけでもないんだ。そもそもそんな間柄でもない。互いに気まずいことなんてないのに変な話だ。
「うおおおおおおお!」
なんだか先程までの自分に嫌気が差して、勢いをつけて社までの長い階段を駆け登る。
「はぁっ……はぁっ……ってまだ半分も登ってないのかよおおおお!」
その後も地道に休憩を挟みつつ、階段を登り終えた。序盤にスピードを付けすぎたのが裏目に出て、着いた頃にはゼェゼェはぁはぁ息を切らしていた。
「長かった。伽々里はこんなん毎日往復してるのか」
鳥居をくぐると、そこには白装束を来た大人が大勢集まっていた。
すると一人の女性が俺の存在に気付き、話しかけてきた。
綺麗な人だ、歳は20代半ば程だろうか。
「キミ、わざわざこんなところまで来て何か用? ってそんなこと言ったら神様に失礼よね」
「いえ、その、伽々里伊織さんはいらっしゃいますでしょうか?」
「あら、伊織のお友達? 伊織ーお友達が来てるわよ! それじゃあたしは仕事に戻るからごゆっくり〜」
「ちょっとお母さん……」
女性と入れ違いで伽々里が現れた。
心配していたわりに伽々里はいつもとなんら変わらない様子で安心した。
ん? てか今お母さんって言ったような。
「え!?」
思わず二度見、いや三度見してしまった。あの見た目で高校生の娘が居るってマジかよ。でも義理の可能性もなくは。
「久遠久しぶり」
「本当久しぶりだな、心配したんだぞ」
そう言うと儚げに微笑みかけられ、バツが悪くなって目を逸らす。
伽々里も巫女服のようなものを着ていて、本当に東雲が言っていたような凄い人の子孫なんだなぁと感じる。
「心配?」
「あれ以来一回もバイト来なかったから」
「それは神社のお祭りの準備で忙しかっただけだよ」
なんだ、そういう事だったのか。
俺に一言そう伝えてくれれば気にせずに済んだのに。
まあ伽々里からしたら、ただのバイト仲間にいちいち伝える必要なんてないと思ったのかもしれない。そこは価値観の相違だと割り切るしかない。
「でもLINEも返事なかったからなんかあったのかなって」
「携帯落として修理に出してたから見れてないの」
偶然重なり過ぎだろ。全部俺の杞憂だったのかよ。
「てっきりこの前嫌な別れ方させちゃったから俺と顔合わせずらいのかと」
「気にしすぎ。板橋くんのこと考えてのことだってわかってるし、むしろわがまま言って困らせたのはボクの方だから」
「そうかもしれないけど俺もごめん」
あの時バスに乗った時から今までずっと胸の辺りがモヤモヤしてた。
俺がもっと上手いやり方をしていれば誰も傷付かずに済んだかもしれない。
助けたいと思ってとった行動がただ二人の心を踏み荒らしてしまったんじゃないかって。
俺にそこまでの責任なんかない事はわかっているのに。
「なんで? 久遠は久遠が悪くないって知ってるのに」
「わかってるけどなんか謝らないとすごいモヤモヤするんだ。まず俺が軽い気持ちで伽々里と偽装デートをしたのがいけなかった」
「ならボクが誘わなければ良かったことだし、無理に落ち度を探さないで」
伽々里はすかさずそう反論し、俺も食い下がる。
「でも俺は伽々里の彼氏でもないのに彼氏面してあいつに説教垂れた挙句、全部嘘なのにあいつを諦めさせちまった。かわりに伽々里を幸せにできるわけでもないのに出過ぎたことをした」
「それもボク頼んだことでしょ。でもだめだった、結果的にみんな傷付いちゃった。久遠が自分を責める原因を作ったし最初からボクが頼まなければよかっただけなのにね」
伽々里の言ったことは何も間違ってない。でも伽々里が悪いわけじゃない。来人が悪いわけじゃない。俺が悪いわけでもない。
きっと三人ともやり方を間違えただけなんだと思う。俺はずるいから自分のせいだと思いこんですぐ逃げようとする。人を責めるより自分を責める方が遥かに楽だから。
「なあ伽々里……俺をもう一度来人と会わせて欲しい」
「来人に会ってもう一度本当のことを話したい」
「わかった。今更どんな顔して話しかけたらいいかわかんないけど……それで解決するなら頑張るね」
ああ、二度と失敗なんてさせてやるもんか。
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