24.嫌われる覚悟


「こんなんで良いんですかね、このチーム……」


 キャンプが始まっておよそ1週間、初めてのオフ。「どこかに行かないか」という仲村の提案で、仲村、内山、それに亀山の3人でドライブに出掛けていた。


「そうだなぁ……」


 レンタカーの助手席に座る内山の問いに、ハンドルを握る仲村が少し考え込む。


「俺は何かしっくり来てないんですよね、今のところ……」


 後部座席に座る亀山が、窓の外を見ながら言う。


「何て言えば良いんだろう、その……、何かが違うんですよね、JPBチームに居た頃に感じていた何かが足りない様な」


 後ろに流れていく景色の中に見える、風ではためく「歓迎 横浜セーラーズ」ののぼりを横目に、亀山が溜め息をつく。


 ——確かに……


 2月の沖縄には、日韓、それに台湾のチームを合わて15球団ほどがキャンプに来ている。さらに、チームによっては2軍も球場や施設を別で貸し切ってキャンプを行っている。この小さな島にそれだけ沢山のチームが来ているのだから、この時期にはどこに行ってもプロチームがキャンプをやっている様なもので、何処へ行ってもこういった類いの旗や看板なんかが掲げられている。


「緊張感が無いって訳じゃないんだよなぁ。一生懸命やってないっていうのとも違うし」


 仲村が信号待ちで停車した隙に、公園の入り口から見える、球場のバックスクリーンの上に掲げられたセーラーズの球団旗が風になびいているのを見上げる。


「何なんでしょうね、意識が低いっていうか……」

「そうなんだよなー、満足するレベルが低いっつーか。こんなレベルで満足してんじゃねぇよ、って思う場面は結構あるよなぁ」

「あ、それは分かる気がしますね。本当にプロに行きたいのかな、って感じちゃうことは結構……」


 ——やっぱ、二人とも感じてるものはあるんだな……


「どうすりゃ良いんだろうな……」


 独り言のように、仲村がぽつりとこぼすように呟く。


 このままではいけないと感じてるのは、内山だけではないらしい。今こんな言葉を漏らした仲村はもちろん、黙ったまま窓の外に目をやる亀山も恐らくは。


 ——やっぱ、甘いんだろうな、このチームは……


 高いレベルに身を置いたことが無いと分からないのかもしれない、目指す世界での「この程度」のレベルが、今身を置いているレベルとはケタ違いの所にあるのだということに。自分と最高峰の舞台で戦う選手との間にある差が、ちょっとやそっとでは埋められない様なものであるのだということに。なまじパワーがあったり、身体能力が高かったりするせいでたまにプロに匹敵するようなプレーが出来てしまうせいで、余計に。


「あの、仲村さん、亀山……」


「ん?」

「どうした?」


 内山は意を決して、口を開く。


「このままじゃ、このチームはダメになっちゃう様な気がするんです。その……、『惜しい選手の集団』で終わっちゃう様な……」


 中途半端なレベルまでしか行けない様なチームに。目指すところまで行けず、ただの元プロと独立リーガーの寄せ集めの集団に。


「そうだな。それだけは絶対に避けなきゃいけねぇ」

「せっかく志を持って結成されたチームを、そんなもので終わらせたくは無いですね」


 全てを言わずとも2人は内山の意図するところをしっかりと汲み取ってくれたらしい。


「なぁお前ら。嫌われる覚悟、あるか?」


 仲村のはっきりとした問いかけに、内山と亀山は頷いた。


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