23.差


 ——何か、思ってたのと違うんだよな……


 内野陣と共に内野ノックに混じっていた内山は、その中身に違和感を抱きながら練習に参加していた。


 やっている練習内容が、思っていたのとさほど違う訳では無い。もっと言えば、スタッフさんの数に限りがあるために多少の不自由が無い訳では無いが、JPBに居た頃にやっていたものと練習メニューが大きく異なる訳でもない。


「いやー、悪ぃ悪ぃ! ちょっと指に引っ掛かっちまった!」


「いやー、イレギュラーに対応出来んかったわぁ」


 ——おいおい、本当にこのチームでJPB以外のチーム目指せるのかよ……


 何というか、上手く言葉に出来ないのだけれど、大事な何かが決定的に欠けているような気がするのだ。


「ホーム!」


 ノッカーを務める、内野守備走塁コーチの森山修もりやまおさむがショート正面に転がした打球を、ショートの守備位置に就いている仲村渠圭汰なかんだかりけいたが少し下がってバウンドを合わせて捕球、そこから素早くステップすると内山の胸の高さに鋭くバックホームする。


「ナイスプレー!」

「良い動きしてるよー!」


 ——良い送球、だけど……。アイツら、何の為の練習か頭に入ってんのか……?


 同じくノックを受けている選手の一部から、今のプレーを褒めたり、鼓舞するような声掛けがなされる。


 試合の中でバックホームをする場面というのは、まず間違いなくホームに突っ込んできたサードランナーを刺しにいく場面であろう。こういう場面ではランナーがボールが転がった瞬間にスタートを切る、『ゴロゴー』の作戦を仕掛けてくることも少なくないから、守備側はそれでも刺せる様にしなければならない。そんな時にバウンドを合わせる為に待って捕ったり、まして後ろに下がって捕る様では間に合わなくなってしまう。そのことがしっかり頭に入った状態で練習に臨んでいるのであれば前進しながらバウンドを合わせようとするはずだし、仮に反射的に待って捕ってしまったとしてもそれを「ナイス」などと思わないはずである。


 ——真面目にやってない、って訳じゃないんだろうけど……


 本人達は本気でやっているのだろう。ふざけたり手を抜いたりしている様には感じられない。だが、それでも満足するレベルが低いと言えば良いのか、圧倒的に意識が足りていないと言えば良いのか、JPBでプレーしている選手と比べると何か決定的に足りないものがある様に感じる。


「セカンド!」


 同じ様に転がされたゴロを、今度はセカンドの守備位置に就いた亀山が前に出ながらバウンドを合わせて捕球する。


「ホーム!」


 捕った勢いそのままに、コンパクトなフォームで亀山がバックホームする。


「ナイス!」

「さっすが!」


 ——確かに上手いんだけどさ……


 上手く言葉に出来ないけれど、より高いレベルを目指すのに必要な大切なものが、このチームからはどうしても感じられない。キャンプ日程が一日一日消化されていく中で、内山は悶々とした思いを抱えるようになっていった。


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