17.船出のとき
「我々、琉球ネイチャーズはこのメンバーで初めてのシーズンに挑みます。監督は
初めてチーム全員と顔を合わせた記者会見の場で、球団社長の林は自ら監督・コーチ陣と全選手の名前を、投手と野手に分けてそれぞれ背番号順に読み上げて紹介していく。まだまだ発足したばかり。選手とコーチ陣併せても30名程度という小さなチームだからこそ出来ることだろう。
「続きまして、野手。背番号1、
背番号順に名前が呼ばれていく。聞いたところによると、ほとんどが独立リーグやクラブチームでプレーしていた選手たちで、かつてJPBに所属した選手も数名含まれているらしい。まさか、その中に亀山や仲村が含まれているとは思わなかったけれど。
「背番号45、内山康太!」
一番最後に名前が呼ばれた内山は、座っていた椅子から立ち上がって、目の前の報道陣に向かって一礼する。
——もう一度、ここから……
元JPB、この球団ではトップクラスのキャリアを持つ「チームの顔」なんだからもっと軽い背番号を勧められていたのだが、もう一度JPBに戻ってやるという気持ちを示すためにあえて名古屋クインセスでも着けていた45番にしてもらった。まあ、愛着のある「#45 K.UCHIYAMA」の文字が刻まれた防具やミットを使い続けても変に思われないだろう、というのもあったのだが。
「以上、監督の桐生克之を筆頭にコーチ4名、選手26名で、我々琉球ネイチャーズは出航致します! まずは給与や生活面のサポートを充実させ、他に働いたり自分でトレーニングする場所を探さずとも練習出来る環境を作る。それによって選手たちをプロでやっていけるだけのレベルにまで引き上げる。まだ16球団構想というのは構想段階ですから、直ぐにJPBに参入出来るとは思っていません。まずは彼らの中からJPBへとステップアップしてもらい、16球団構想が実現した時に『満を持して』参入する、というのが我々琉球ネイチャーズのビジョンです!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「おう、調子はどうだい、内山!?」
「調子って……。まあ、自主トレは順調にやれましたよ。っていうか、監督やるっていうのにそのテンションは変わらないんですか?」
「はははっ、相変わらずみたいで何よりだよ! そして俺はこういう人間なんだ、監督やろうが何しようが、俺は俺だし変わらねぇよ!」
後ろから肩を組んできたのは、監督に就任した桐生だ。一時期名古屋クインセスのバッテリーコーチを務めたことがあるから、面識がある。割とどんな時でもこんなおちゃらけた感じでいる、一見ふざけているようにしか見えない人間である。が、その観察眼はかなり鋭い人間で面倒見が良く、彼を慕う人間は多かった。こういう新チームの監督を務める人物としては、意外と持って来いの人物なのかもしれない。何故かあんまり認めたくはないけれど。
「頼むぜー、お前はチームの中心に居て貰わないと困る存在なんだから」
「俺ですか? 亀山や仲村さんだって居るのに……」
「もちろんアイツらにも期待してるけど、お前はキャッチャーだろ? グラウンドではお前の指示でチームが動くことになるんだ、その要がしっかりしてないチームが高いレベルでやっていける訳がないだろ」
キャッチャーは「司令塔」と形容されることがよくある程、試合の中で周りに指示を出す機会の多いポジションである。キャッチャーの善し悪しは他の選手、特にピッチャーの成績にも大きな影響を与えるもので、強いチームには大抵良いキャッチャーが居るものである。
「それに、ここで結果を残せない限りはJPBには戻れないぞ?」
——!
「何も隠すことは無いぜ? 元々、林さんも俺も、『元JPB選手はそこに戻れるように、ドラフト候補選手は指名されるように』っていうのが当面の目標だ。将来的にはJPB参入を目論む球団ではあるけど、今は個々のステップアップの為のチームでもあるんだ、JPBに戻れるだけの力をつける為に俺たちを使え。な?」
「チームの中心に居て貰わないと困る」なんて言われたからてっきり「ずっとここに居てチームを支えてくれ」という意味かと思って身構えてしまったけれど、続けて桐生から発せられたのはそれとは真逆のことであった。
「今日からお前は、一時的に「琉球ネイチャーズの内山」だ。早く「元琉球ネイチャーズの内山」になってくれよ」
軽くぽん、と内山の背中を叩くと、桐生は他の選手に声を掛けに、チームメイトたちの集団の中に突っ込んでいった。
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