14.暖かさ


 1月、年明け直後。内山は那覇空港に居た。


「なぁ、濱ちゃん」

「はい?」

「本当に良いのか、俺らまで」

「何言ってるんスか、ここまで来て」

「いや、まぁそうなんだけどさ。でも、クビになったヤツと一緒に自主トレなんて……」

「でも現役じゃないですか」

「まあ、そうだけど……」


 プロ野球選手というのは、シーズンオフにもトレーニングを積むものである。チームでの練習はシーズンが終われば秋季キャンプに呼ばれない限りは無く、新しいシーズンに向けた春季キャンプが始まるのは2月。その期間、身体のメンテナンスとシーズン中にはなかなか出来ない様なトレーニングを自分でするものなのだ。自主トレは個人でやる選手も居れば仲の良い選手達で集まってやる選手も居るが、集まって自主トレをやる場合には投手同士、野手同士で集まることが多い。が、どういう訳か、濱谷からの「一緒に自主トレしませんか?」という誘いを受けて、今年はピッチャー陣5人の自主トレに混じることになった。


「ま、良いじゃねえか。俺らだってシーズンオフに捕ってもらえるの、ありがたいんだよ」


 今回の自主トレメンバーの中で最年長、名古屋クインセスのエース大戸雄太おおとゆうたが、そう言って内山の背中を叩く。


「いや、まあ僕としてもありがたいんですけど……」


 キャッチャーとして、生きた球を捕り続けることが出来るのはありがたい。それに、打席にも立ってくれと言われているから、バッターとしても生きた球を見ることが出来そうだ。自主トレでは大抵マシン相手に打ち込むことが多いのだけれど、やっぱりピッチャーの投げる球を打つ方がマシンを打つよりも練習になる。


「そうそう、別に違うチームだからって一緒に自主トレしちゃいけないってことは無いしな。一緒に頑張ろうぜ?」

「岡崎さん……」


 クインセスの左の中継ぎエース、今回のメンバーの中で2番目に年長者の岡崎康哉おかざきこうやが内山の頭をクシャクシャっと撫でる。


「お前、戦力外を受けたことを引け目に感じてるんだろ?」

「いや、まあそれは……」


 無い、と言えば嘘になる。だって球団から「いらない」と言われたから戦力外を受けた訳で、来季も契約してもらえた彼らとはそれだけでも大きな差があるはず。引け目を感じないで居られる訳が無い。


「そもそも、自主トレなんて高校時代のチームメイトに手伝ってもらうことだってあるんだし、何も問題ないだろ。それに、俺たちはもう一回お前に捕ってもらいたいんだから」

「そうっすよ内山さん!」

「濱ちゃんまで……」


 やけに身体が熱く感じるのは、この時期のくせに21度もある、南国特有の陽気のせいだけではなかったはずだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る