10.トライアウト④


「ファール!」


「ファール!」


「ボール!」


「ファール!」



 ——くっそ、思ったよりコントロール良いじゃん……!


 3球目、ファールチップをキャッチャーが捕り損ねたことで首の皮一枚繋がってから、内山はとにかく来た球をカットして、ファールで何とか食らいつき続けていた。


 前の打者との対戦を見る限りだと抜け球も少なくないし、そこまでコントロールが良いピッチャーだとは思っていなかった。これだけのボールをここまで制球出来るのなら、きっとJPB球団だって放ってはおかないだろう。


 山本が大きく振りかぶって、投球モーションに入る。力強いフォームから、右腕がしなるように振り下ろされる。


 ——変化球……、いや、ストライクか……!


 手元でククッと曲がったボールに、内山は咄嗟に右手を離して左手1本でバットをぶつけに行く。


 カツンッ!


 バットの先に当たったボールが、フラフラッと上がって、一塁側の内野スタンドまで飛んでいく。


「ファール、ファール!」


 ——くっそ、付いていくので精一杯だ……!


 とりあえず、ファールで逃げることは出来る。だが、なかなか前に飛ばせるようなボールではない。ストレートには球威があるし、変化球は低めに上手くコントロールされている。3ボール2ストライクのフルカウント、相手もボール球を投げればフォアボールという局面ではあるけれど、こちらもストライクの可能性がある球なら手を出さない訳にはいかない。互いに追い詰められた状況で、一進一退の攻防を繰り返している。


 ——くそ、せめて出塁を……


 キャッチャーからのサインに頷いた山本が、胸の前でグラブを静止させてから投球モーションに入る。力強く、かつしなやかのフォームから、まるで右腕が鞭のようにしならせられて振り抜かれる。


 ——高い……!


 リリースの瞬間、ほんの少しだけボールが浮いたように見えた。内山は出かかったバットをぎゅっと握りしめ、スイングしそうになるのを何とか堪えて向かってくるボールを見送る。


 シュルルルルッと空気を切り裂いて真横を抜けていったボールが、キャッチャーミットからパチィィンという気持ちの良い音を鳴らす。


「ボール! フォアボール!」


 主審の甲高いコールが、グラウンドに響き渡る。


 ——これが、俺の最後、なのかぁ……


 恐らくもう、このトライアウトで内山に打席が回ってくることは無い。そしてここまでの打席の内容を考えれば、どこかの球団から声が掛かることも無いだろう。


 ——最後くらい、自分のスイングで打ちたかったな……


 これが、自分の最後の打席になるのだろうから、せめて最後くらいはと思ったけれど、結局食らいつくのに精一杯で自分のバッティングをさせてはもらえなかった。この最後の舞台でやりたいこと、見せたいものをほとんど出せずに終わってしまった。


 左肘に付けた防具を外しながら見上げた空は雲一つ見当たらず、やたら青く透き通っていた。


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