9.トライアウト④
——このピッチャー、どんなタイプなんだ?
マウンド上に立っているピッチャーは、
JPBのトライアウトというのは、かつてJPBに所属していた選手であれば現役続行の意思がある限り誰でも3度まで参加出来ることになっている。つまり、前年にJPB以外、場合によっては海外のチームなんかでプレーしていたとしてもトライアウトへの参加資格はあるということである。もちろんそれでも大半はやはりその年にJPB以外のチーム球団から戦力外通告を受けた選手が大半ではあるのだが。
——まあ、分からないなりに食らいついていくしかないか……
独立リーグは日本におけるトップリーグではないけれど、そのレベルは決して低くはない。さすがにJPBには敵わないとはいえ、JPBの2軍でなかなか出場機会に恵まれない若手を独立リーグに派遣して経験を積ませることもあるほどである。まして元々はJPBで投げていたピッチャーだ、前の打席までで対戦した選手たちに比べても力はそう劣るまい。
「プレイ!」
前の3人との対戦を見る限り、ストレートが150キロを超える本格派の右腕、変化球はカーブの様な抜いた球とフォークかチェンジアップか何か、落ちる系の球種を持っているらしい。140キロそこそこのボールも何球かあったから、カットボールかツーシームみたいな手元で小さく変化するボールも持っているかも知れない。
マウンド上の山本が大きく振りかぶって、投球モーションに入る。そこからしなるように、されど力強く右腕が振り下ろされる。
——速っ……!
「ボール!」
初球はストレートが高めに浮いてボール。だが、バックスクリーンの球速表示は153キロ、今日の最速である。
——なるほど、こりゃあ皆詰まらされる訳だ……
前の3人は全員今のストレートを叩いてポップフライやらボテボテのゴロで打ち取られている。1ボール1ストライクからの対戦ということもあって、基本ストレート待ちで変化球にもついていこう、というスタンスで打席に立っていたのだろうが、このストレートはよほど綺麗に捉えない限り力負けしてしまうだろう。
——ただ、そんなにコントロールは良くなさそうな気がする……、じゃあストレートについていって、変化球狙いか?
山本が顔をしかめたところからして、多分今のは意図的に高めに投じたのではなくストライクにしたかったけれど浮いてしまったのだろう。これで2ボール1ストライク、カウントに余裕が出来た。
——次は絶対にストライクが欲しいはず。となれば、もう1球ストレートか、変化球ならカットボール系の曲がりの小さいボールか、か?
山本が大きく振りかぶって、オーバースローのフォームから思いっきり右腕を振り下ろす。
——速い……!
シュルルルッ、と風を切ったボールが、外角に飛び込んでくる。
「ストライク!」
——これで2ボール2ストライクか……。次は落とす系のボールか? いや、ストレートを続けるってことも……?
2球目は150キロのストレートが決まってストライク。ストレートを2球続けてきた。ストレートは力負けしそうで手を出さないと決めていたけれど、追い込まれる前に変化球を見ておきたかった。
——しょうがない、粘って付いていくしかねぇな……
追い込まれている以上、どんなボールが来ても対応しなければならない。
マウンド上の山本が大きく振りかぶって、投球モーションに入る。しなやかな腕の振りで放たれたボールが、内山の懐に向かって一直線に飛び込んでくる。
——ストレート……!
変化球が頭にあった分、ほんの少し反応が遅れた。
——当たれぇ……!
ワンテンポ遅れて始動した内山が、腰を引きながらのかなり窮屈なスイングでバットを出す。
カツッ……、パチンッ!
151キロを計測した直球は、茶色い内山のバットを掠めて——、構えられたキャッチャーミットの革を叩いた。
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