第27話 先輩と性が香る沈黙

 駐車場に向かったが、車内に先輩はいなかった。

「……先輩?」

 遠くに、先輩の背中を見つける。彼女は、駐車場脇の林へと向かって歩いていた。

 どこに行くんだろう?

 どんどん離れていく先輩を、僕は焦って追いかける。後をつけるのは気がひけるが、追いかけたい気持ちが勝ってしまっている。

 そこには、木々に囲まれたこぢんまりとした教会があった。隣に観光名所らしく看板が立っていたが、訪れる人は少なそうだ。

 薄いブルーのステンドグラスから、淡い光が漏れてくる。林の中でひっそりと息をひそめ、静かに佇んでいるようだった。

 この教会を、どこかで見たことがある。いつ見たかはわからないし、来たことはないはずだが。

 窓越しに中を覗く。そこには、座席の背もたれに頭を預け、天井をぼうっと見つめている先輩だけがいた。

 戸を開くとこちらに気付き、視線を向けてきた。驚きを呑みこんだように見えた。

「樹くん?」

「もう二人で盛り上がっちゃってて、あの場にはいられなくなっちゃったんで」

「え、あの二人できてるの?」

 できているというより、トラビスが暴走し、僕らがいない間に間違いが起きてしまったのかもしれないが。鞘師も流されそうなタイプだしなぁ……。

「……どーでしょ。ただ、トラビスはヤバい目してましたね」

 僕が苦笑すると、先輩はケタケタと笑った。

 もしや、トラビスが僕を応援していたのは、鞘師と二人きりになるため……?

 まさか、ね?

 先輩の声が落ち着くと、教会は不自然なほどシンとした。

 沈黙。

 セックスの薫りは、するだろうか?

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