第28話 映研一行は、この四月三日に閉じ込められている
「あ、あの」
僕が切りだすのを、先輩は遮る。
「合宿、楽しい?」
「まぁまぁ」
「私は、楽しいよ」
楽しいよ、なんてありふれた一言だ。でも、もう何年も僕は口にしていないし、誰かが口にしているのもあまり聞かない。
目の前の人間と過ごすことを「楽しい」と伝えるのは、あまりに照れ臭く子供じみている。
「明日になったら終わりですよ」
あぁ、そうじゃない。どうして、こんなつまらないことしか言えないんだろう。
《決まっているだろう、お前が密先輩を好きだからだ》
いもしない、そもそもそんなこと言ってないトラビスの声すらする。重症かもしれない。
先輩の過去について聞きたい気持ちは強くあったが、どうきっかけを作ればいいのか。
「終わらないよ」
「は?」
「私たち映研一行は、この合宿の四月三日に閉じ込められている」
「……えーっと」
あんまりに真剣な様子で言うから、突っ込んじゃいけないのかと迷ってしまう。
「今度は何の冗談ですか?」
「悪魔と契約して、この日をずっと繰りかえしてるんだ。タイムリープだね」
「いや、ドッキリもういいですよ。盛り込みすぎですって」
「本当なのにな。ずっと四月三日。童貞喰いからすれば最高だね」
「どういうことですか?」
「たとえ童貞を奪っても大丈夫。今日が終わりそうになったら今日の最初に戻る。そうすれば、童貞膜が復活する。それを繰りかえせば、君の初めてを何度も味わえるじゃない?」と彼女は自虐的に言った。「処女が何言ってんだって話だけどね」
「……先輩って、馬鹿なんですね」
真剣になると傷つく。馬鹿をやっていれば、前には進めないけど楽な関係でいられる。
あの二人には悪いけど、やっぱり先輩の心情に深く言及することはできなかった。
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