第25話 好きという面倒くささ
「は、はは……はぁ」
ため息交じりの声が零れた。バカバカしい気持ちのときしか出ない、力の抜けた笑いだ。
「笑うな!」鞘師が僕を怒鳴りつける。
「さっきは笑えって言ったろ!」
「さっきとはまた別なんだよ。大体、ちゃんと告白したのかよ? してないだろ?」
「それっぽいことはしたよ。セックスして下さいってさ」僕は芯のない声で反論する。
「そういうことじゃねーよ、好きだって言ったのか?」
ん?
そういえば、好きだって言ってなかった……っけ?
今からそれを伝えるか?
えぇー、でも今更?
鞘師。お前、相変わらず直球だね。
だけどそれは、当たり前すぎて僕が気付かなかったことなんだ。
「好きなんだろ。好きって言えよ」
「そうだぞ、板山。好きなものは好き。それでいいんだ!」
二人して絶対面白がってるだけだろ。
青春ごっこだ。
ごめん、鞘師。僕はそういうごっこ遊びはできない。
「僕が好きだからなんなんだよ。密先輩なんか、どう考えたってモテるし僕なんか相手にされないよ」
「たしかに」鞘師は納得したように手を打つ。
腹は立つけど自分で言いだしたことだ。先輩には男の影がちらつく。
無理もないよな、あれだけ可愛ければ絶対、何かしらアプローチはあるだろうし。
「でも好きなんだろ、なぁ?」とトラビスがしつこく僕を責めたてる。
鞘師も一緒になって「そうなんだろ?」なんて追撃をしてくる。「樹、なぁって」
「あーもう、好きだよ!」
思わず叫ぶ。いつぶりだろう?
「悪いかよ、うるせぇんだよ外野がよぉ!」と僕はさらに叫ぶ。
二人は呆気にとられ、見たこともない綺麗な眼差しで僕を見つめた。
好きってだけなのに、なんでこんなめんどくさいんだよ。
それにさ、今こんなとこで言っても仕方ないだろ!
「好きって、お、俺のことがか?」トラビスはおちょくるように言った。
「お前じゃねーよ、ヴァカもう!」と僕は声を荒らげる。
「板山が鞘師化している……」トラビスはなぜか熱っぽく僕を見つめた。
「え、おれってこんなバカっぽい?」と鞘師が問うと、彼は熱心に頷いた。
「……これから、全体的に気をつけるわ」
「先輩。好きだぁぁ!」
もはや僕は二人のことなどお構いなしに、駐車場に向かって叫ぶ。先輩が好きかどうか突き詰められ、責められ、悩み過ぎて壊れてしまったんだと思う。
ヤケクソのように連呼する。
「好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ!」
どうか、聞こえていませんように。そんな矛盾した気持ちで頭がいっぱいになる。
あーくそ!
結局こんなつまんない言葉しかでないのかよ、僕!
これじゃ先輩には響かない。でも何も思いつかない。
あーあーあーあーあーあーあーあーもう!
先輩を本当に振り向かせるには、こんなありきたりな言葉じゃダメだ。
これから先、明日や明後日のことなんかどうでもいい、今、先輩を振り向かせたい。
――あたしも好きだよ、樹くん!
悔しい。悔しいけど、結局聞きたいのはそんな単純な言葉だ。
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