第8話 ジョイント

 ……などと考えていると、ダッシュボードに置いた僕の携帯が震えた。

 鞘師からの着信。先輩は顎で「出たら」と促す。嫌な予感たっぷりで、電話に応じた。

『大丈夫か、樹! もしかして、もう……』鞘師の声は消え入りそうだった。

「もう?」

『やっちまったんだろ! なぁ、おい!』

「あ、いや」

『やってないのか!? ひゃっほう』

「ひゃっほうって」

 そんなに嬉しそうにしなくても。

「樹くん、なにコソコソ話してんの?」

 先輩が訝しげにこちらを牽制する。僕はため息をつき、鞘師に告げた。

「もう切るよ」

『待て、どこにいるんだよ?』

「わからない。山を下ってるっぽい。以上」

『密先輩は?』

「今は運転中だけど……」

『すぐ追いかけるから、待っとけ』

「追いかけるって、車だぞ。それに場所は?」

『どうにかする! 電話は切るな。電話切ったフリして、ずっとイヤホンつけてろ』

「どうして」

『お前、裏切りかねないからな』

「ホントは羨ましいんじゃないのか?」

 僕は思わず言った。

『は? 誰が? 誰を?』

「僕が先輩と二人きりだから」

『お前と一緒にするな、おれは引く手数多なんだよ』

「……」

『疑ってんのか? わかったよ、そっちがその気なら、作戦変更だ!』

「変更って?」

『おれがお前に行動を指示してやる!』

「指示? なんのために?」

『おれの言う通りにすれば、密先輩をイカせられるっていったら?』

 いく。

 いかせる。

 正直、そんなこと考えてもいなかった。

 ジョイントすればそれでOK、なんて考えていた僕。ちょっと鞘師に上に行かれた気がしてちょっと悔しい。

 そう、ちょっとだけ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る