第9話 DT攻防戦

 童貞には証拠がない。それは、非童貞にも言える。

 以前、飲み会で鞘師を問い詰めたことがある。

「いつも偉そうにするなよ、童貞じゃない証拠でもあるのかよ?」と、証拠など提示できないとわかって訊いていた。

 なんとまぁ醜い争い、だが、常にそのことでからかわれていたから切実だったのだ。

 しかし鞘師は自信満々、痛いところを突かれた様子もなく、「証拠を見せる」と僕とトラビスを家に招いた。そしてタンスの奥から、卒業証書を入れる筒を持ちだした。

 中には、丸められた半紙。

「こ、これは……」

 そこには、墨汁で判を捺されたような大きな丸が、並びで二つ。それぞれの円の中央に、これまた小さな丸が。

 その「作品」は、名のある書家の一作のような迫力……いや、神々しさすらあった。

「パイ拓だ」

 鞘師は勝ち誇った。

 パイ拓。おっぱいの拓。

 これが証拠になるのか、ならないのか。まさしく卒業証書ってのか?

 ただ、確かに童貞の僕はパイ拓を所持することができない。

 冗談で女友だちにとらせるのも、難しいだろう。とゆうか、女友だちなんかいない……。

 パイ拓は、鞘師を僕よりも上の「男」だと証明するには十分だったのだ。

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