第8話  別れ

 桜の花もちらつき初め僕も高校2年生になった。

 そして結夏と出会って半年にもなる。


 結夏との生活は僕にとって当たり前になってしまい、簡単に手放せるものではなくなってしまった。


 いつまでここに居てくれるだろう……。








 学校から帰って、食器を洗い洗濯もして少し休む。

 少ししてから結夏も帰ってきた。


「ねぇ、栄汰」

「……ん?」


 いつも以上に暗い顔の結夏。


「私ね。家に一度帰ろうと思う」

「そっか……」


 突然のことで驚いたが前々からこうなることは覚悟していた。


「もう戻れないかもしれないし、会えなくなるかもしれない」

「そっか…」

「なにへこたれてんのよ」

「お前は寂しくないのかよ、僕は寂しい」


 つい本音が出てしまった。

 結夏は少し驚いている。


「私も寂しいけどあなたがそれを吹き飛ばしてしまうくらい沢山楽しい思い出をくれたから」

「結夏……」

「じゃあね!。今までありがとう」


 そう言ってあらかじめまとめられていた荷物を持ち結夏は行ってしまった。









 朝、いつもなら結夏が僕を起こしに来る時間。

 部屋を見回す。


「はぁ…」


 いつもなら朝食を作ってくれて弁当も持たっせてくれる。


 いつもなら笑顔で『おはよう』と言ってくれる。


 いつもなら……。


 また独りか……。


 結夏と出会う前まで独りで食事をすることもテレビを観ることも当たり前だったはずなのに。

今は独りの空間が寂しくて苦痛で耐えられない。


「なんでも一つ言うこと聞いてやるから帰って来てくれよ!」


 ん?……。顔が濡れてる。

 今僕泣いてるんだ。









 私の母はとても優しい。


 いつも相談にのってくれるし好きなこと、やりたいことを沢山させてくれた。

 でも父は違う。


 父は私を中学3年生という若さで大企業社長の許嫁にした。

 それも父より年齢が上のまだ一度も会ったことのない人。

 16歳になったら結婚させられることを知った私は猛反対したけど、父は聞く耳をもたなかったので、私は家出をした。


 母は学校に事情を伝え、父には内緒にしてもらえないかと教員に頼んでくれた。

 学校は渋々だったけど、特別に聞き入れてくれた。


 母は『自分の人生は自分で決めなさい』と言って私に2000万円入ったカードを持たせてくれ、それからはネットカフェにコンビニ弁当を買って帰る毎日。


 そんなある日私と同じ学校に有名食品会社の社長の息子がいるらしいと友達との会話で知り、私は興味本位で少し探してみることにした。


 するとまさかの自分と同じクラスにいることがわかった。

 彼を見てみると優しそうでスタイルもまあまあ良くて自分好みの顔立ちだった。


 彼と喋ってみたいと思い、それから彼と話すきっかけが欲しくて毎朝通学時間に着けてしまっていた。


 でもそのをかげで彼から話しかけてきてくれるきっかけになった。


 ストーカーと言われたのは少し落ち込んだけど、今では良かったと思う。


 最初は好きなどと言った感情があって近づいた訳でもなく、お金持ちで整った顔だったので生活費を浮かせるためだけに利用しようと近づいただけだった。


 でも一緒に暮らしていくうちに、彼の面白いところ。真面目なところ。頼りになるところ、そんな彼の良さを沢山知ってしまった。


 だけどいつかは彼にも彼女ができるかもしれない。

 そうなったら私は彼にとって邪魔な存在となってしまう。


 私は怖くなった。


 だから痛みが少ないうちにこの同居生活も終わらしてしまおうと思った。






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