一章 やはり世の中は金が全てなのか?
第6話 金の亡者
「自殺屋」達と話をしているうちに、外はすっかり明るくなってしまっていた。こんな朝日の中で彼のただでさえ目立つ赤い姿は更に目立ちすぎてしまうだろう。彼は色々考えた末、「シスター」の言葉に甘えてこの不気味な洋館に泊まっていくことに決めたようだ。書斎の肘掛け椅子に座って読書をしていると、先程の「埋葬屋」が顔を覗かせて話しかけてきた。
「へぇ。君、本とか読むんだ。意外だね。」
「埋葬屋」は相変わらずの嫌味な調子だが、気にしていたら負けだと思い込み、彼は無視を決め込む。ただ「埋葬屋」にとってはそちらの方が都合が良かったのか、彼の返事も聞かずに彼の隣の椅子に腰を降ろし、馴れ馴れしい様子で話を始める。
「ああ、それで早速なんだけど。「自殺屋」の次の仕事対象のオッサン、金に取り憑かれた金の亡者のくせして中々情報が抜けなくてね。君さぁ、紙になれるんでしょ?紙ならどこからでも怪しまれずに侵入できるじゃない。手伝ってよ。」
「……………」
彼が最早意地とも取れる沈黙を返すと「埋葬屋」は声を潜めて彼の耳元で囁く。
「…もしやってくれるなら、君の…「怪盗紳士」スカーレットとしての記憶を世間から「埋葬」してあげるよ。僕が「
彼の本のページをめくる手が一瞬、止まる。その様子を見た「埋葬屋」は追い打ちとばかりに「…勿論、嘘じゃない。約束は守るよ。僕だってまだそこまでクズじゃないしね。…どう。受けてくれる?」と囁くと、彼は静かに目線を「埋葬屋」の方に向けて「…お前たちは、私…「ロミア・ノックス」ではなく、怪盗紳士「スカーレット」を友人にしたのではないのか?」読んでいた本を閉じ、皮肉るように嘲笑を含んだ声を返した。「埋葬屋」の表情が明らかに引き攣るのが分かる。
「恩はあるから協力はしてやる。だが、私は「
きっぱりと言い切り、また読書に戻った彼を少しの間黙って見つめていた「埋葬屋」はふと、押し殺したような笑い声を漏らす。その乾いた笑い声は徐々に大きくなっていき、「ははっ!OK、気に入った。ここで頷いてたら僕、確実にジュリアに黙って「埋葬」してた。」先程までの嫌味さはどこへやら、明るく快活な笑い声を上げながら彼の肩を軽く叩いた。「仕事の強制はしないよ。だって君は…あのジュリアの「友達」だからね。」
「待て。」
そのまま立ち去ろうとしていく「埋葬屋」を呼び止め、彼は今度こそ本を完全に閉じた。その反応を見るに、どうやら「埋葬屋」は彼を試していただけらしい。
「どこに侵入すればいい?「怪盗紳士」スカーレットの実力を見せてやろう。」
「ああ、結局やってくれるの?ありがとう。知ってる情報は教えるよ。」
「埋葬屋」は書類をぱらぱらとめくり、赤い付箋が貼り付けられた紙切れを取り出すと彼の目の前の机へとその紙切れを置く。紙切れには整った字で「オズワルド・バロウズ 36 男 ヒスパニック系」と走り書きされており、紙切れの端には筆記体で「5/17 キャリー・ローゼス」と名前が書かれており、「シスター」の書いたメモであることが分かった。彼の心臓が一度だけ、どくんと鳴る。
「…オズワルド・バロウズ…?」
「あれ、知り合い?」
「………いや…知らないな。それで、この男の居場所は?」
「埋葬屋」は歯切れの悪い彼に一瞬瞳を細めるが、彼が誤魔化すように問うと全てを察したかのように書類に目線を落とす。
「ああ、それね。このオッサンの隠れ家はシスター殿が見つけてくれたんだけど、中々警戒心強くてさぁ。あのシスター殿でも警備抜けらんなかったらしいんだよ。…そこで、君の出番。流石に紙なら警戒しないでしょ。飛んでる紙っぺらまで警戒するほど馬鹿でもないだろうし。」
「…分かった、その仕事引き受けてやろう。報酬は…」
「君の言い値でいいよ。ジュリアもシスター殿も、僕だって金の為に殺し屋やってるんじゃないからね。余った分を分けるよ。全部取っても構わないけど。」
彼は普段の不敵な笑みを取り戻し、「埋葬屋」が瞬きをする一瞬の間に紙っぺらに変化して風に吹かれ、どこかへと飛んでいく。
「いってらっしゃ~い、「
「埋葬屋」はその紙に向けてひらひらと手を振り、踵を返すと書斎から出ていった。
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